IDAJはユーザーなど向けのイベント「IDAJシンポジウム2024」を開催した。本稿ではオムロンの講演「熱領域におけるCAE活用推進の取り組み課題と施策」について紹介する。
IDAJは2024年11月7〜8日、ユーザーなど向けのイベント「IDAJシンポジウム2024」を開催した。
同イベントにおいて、複数の部門にまたがる設計開発プロセスの生産性向上をテーマにしたセッションの中で、オムロン 技術・知財本部 デジタルデザインセンタ デジタルデザイン部 CAE・最適化グループ グループ長の蜂谷孝治氏が「熱領域におけるCAE活用推進の取り組み課題と施策」と題した講演を行った。
オムロンの社内では熱シミュレーションの活用が現場にも浸透しつつあるが、さらなる活用を推進する上での課題も見えてきた段階だという。課題解決に向けて取り組んでいる過去モデルの蓄積と流用、熱シミュレーションモデルの標準化、新たな部品のモデル化などの活動について、蜂谷氏が紹介した。
オムロンの事業は制御機器やFAシステムが主力だが、血圧計や体温計などの健康関連機器、スイッチやリレーなどの電子部品、パワーコンディショナーや駅の自動改札など社会システム……と幅広く、扱う商品は20万点以上だ。事業領域も商品のバリエーションも多様なため「60社のベンチャーの集合体のような状態」(蜂谷氏)だという。
蜂谷氏が所属する技術・知財本部は、これらの事業に対する研究開発に加えて、AI(人工知能)やデータサイエンスなどデジタル技術によって開発を革新し、ハイサイクルに回していくための改革を進める役割も担っている。そのため、デジタルデザインセンタが設立された。そして、デジタルデザイン部 CAE・最適化グループはシミュレーション技術のセンターオブエクセレンス(CoE)として全社の開発の生産性向上に貢献することを目指している。
蜂谷氏はCAE活用の狙いについて、「実機の代わりにシミュレーションで評価して開発リードタイムを短縮すること」「実機評価では分からない内部の現象を把握すること」「デジタル化による開発プロセスの進化」を挙げた。特に、熱CAEは構造設計の段階で活用することで筐体の作り直しのような大きな手戻りを防止するメリットがある。
オムロンでは、シミュレーションの導入が1990年代にスタートした。まずは実機での開発中に課題が発生したときに対策を検証する問題解決型の単発でのシミュレーションだったが、2010年ごろから徐々にフロントローディング型の開発に移行し、開発の上流でシミュレーションが活用されるようになってきた。
当初は技術・知財本部のある本社がシミュレーション活用をけん引し、事業部の現場に入って実際に運用するという形態だったが、熱CAEを扱う人材は、本社だけでなく各事業部にも増えてきているという。本社と現場で役割分担をしながらシミュレーション活用を推進している。
シミュレーションの活用状況は部門によって差があり、現在トレーニング中の部門や、サポートがあれば活用できるという段階の部門もあるが、活用推進のけん引役になれる部門や自立して活用できる部門が増加している。2020〜2024年の4年間でもステップアップした部門が増えているという。
熱シミュレーションが先行しているのは、パワーエレクトロニクス関連だという。小型化や高密度化、ハイパワー化が進む中で熱対策の重要度が高まっているためだ。また、強電系だけでなく弱電系でも熱シミュレーションの活用が広がっている。
CAEの活用推進の初期は、現場と経営陣からその価値が理解されないことが課題だったという。「なかなか定着しないので、地道に価値を説明して隣の芝を青くする(活用している部署がうらやましく見えるようにする)ことをやってきた。他社の動きや時代の流れもあって、1つの壁は越えられたかなというところだ」と蜂谷氏は振り返る。
先述したように現場でのCAE活用が進む中で、課題は変わりつつある。現在の課題の1つは、モデリング時間が長く開発計画に合わないことだという。開発期間の短縮が加速しており、CAE活用プロセスも高速化が求められているが、「モデリングする期間は、人にもよるが年間で1カ月程度しかないためスキルが上がらない」(蜂谷氏)。
また、CAEによる予測の精度が不足しているが、現場主導のCAE活用では知見やノウハウを蓄積するのが難しいという点も課題になっている。そのような現場では、CAEを使った実績のないデバイスをモデル化するなども難しい。
さらに、現場でのCAE活用が進んでいるものの、次世代の育成にはつながっていないという課題もあるという。実践し能力を発揮する機会が限定的で、現場としても短期的なテーマでのCAE活用が優先されることが背景にある。
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