それでは初めてCNCが誕生した時期における象徴的な製品を紹介したい。1974年に開発されたファナックの「FANUC 2000C」であり、それを図8に示す。
汎用のマイクロプロセッサは当時すでに世の中に登場していたが、それらはまだ性能が不十分であったため、自社でカスタマイズしたマイクロプロセッサを演算デバイスとして使用していたという。このマイクロプロセッサを用いて、数値演算部における演算処理を実現していたのである。
また、データ保持部においては紙テープから読み取った情報を一時的に記憶する半導体メモリを持っており、サーボ制御部においてはアナログサーボ制御によりDCモータを動作させていた。
このように、工作機械の自動化を実現するための基本機能を備えたCNCの誕生と捉えられるものである。
ここで、ファナック以外のメーカーが開発したCNCについても取り上げておきたい。
1972年にはオークマがコンピュータを搭載した「OSP2000」というCNCを開発しており、これを図9に示す。さらに、海外に目を向けると、ドイツのシーメンスが1973年に同じくコンピュータを搭載した「SINUMERIK 580」というCNCを開発している(図10)。
世界で初めてのCNCにどれが相当するかというのは、試作や発表、実用といったどの基準で捉えるかにも依存し、判断が難しい。
はっきりといえることは、1970年代初めのこの時期にコンピュータを搭載したCNCが複数のメーカーから開発されたということである。そして、この時期に到達したCNCの設計構造が、現在の主要なCNCにおいても基本的には引き継がれているのである。
本稿では、多くのメーカーのCNCが出そろったと思われる1974年を第1期の終わりとして定めている。
CNC発展の歴史を紹介する本連載において、第2回の今回は「CNCの誕生」と題して、基本的な機能が備わりCNCが誕生した第1期の時代について述べた。
この時代にはCNCの基本的な技術が確立されたのだが、現在においてはCNCが内部で当然のように実現している内容であるため、このあたりのCNC技術を詳細に記した書籍はほとんど見当たらない。
そこで、これを学ぶことができる技術書を紹介しておきたい。図11はファナックの創立者である稲葉清右衛門氏が書かれた「やさしいNC読本」である。この書籍は1970年の初版から1986年の5訂版に至るまで、何度も繰り返し改訂されており、それぞれの時代の最新のCNC技術について解説されている。
今でこそブラックボックス化されているといわれているCNCであるが、稲葉清右衛門氏がこの技術を世の中に広めようとして取り組んでいたことが感じられる。この書籍を入手することはもはや困難となっているが、国立国会図書館のデジタルコレクションにおいて閲覧することは可能である。登録などが必要ではあるが、本稿を読んでCNCについてより深く知りたいと思われた方にはぜひご覧いただけたらと思う。
以上で今回の記事の締めくくりとし、次回はCNCを搭載した工作機械の比率が高まり、CNCが工作機械の標準になった第2期について紹介することにしたい。
謝辞 本稿は高桑MT技術士事務所 高桑俊也氏の監修の元、執筆を行った。CNCの歴史についての知見とその整理の方法など、実に数多くの助言をいただき、ここに同氏に対して感謝の意を表す。
高口順一(こうぐち じゅんいち)
ベッコフオートメーション ソリューション・アプリケーション・エンジニア 博士(工学)
東京大学工学部を卒業後、ものづくりコンサルティングファームに入社。その後、工作機械メーカーを経て、2015年からはドイツの制御装置メーカーであるベッコフオートメーション株式会社にてPCベースPLC/CNCであるTwinCATの技術を担当している。2024年には東京工業大学工学院 博士課程を修了。「センサ信号解析および機械学習に基づくエンドミル加工の状態モニタリング」を研究テーマに据え、工作機械とCNCの発展のために取り組んでいる。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.