知っておくべき無線通信技術の基礎知識と製造現場の無線通信環境製造現場への無線通信技術の導入(2)(2/3 ページ)

» 2024年10月28日 08時00分 公開

製造現場の無線通信環境

 製造現場における無線通信環境は、一般的なオフィスや家庭とは大きく異なります。ここでは、製造現場での無線通信の特徴や注意点について解説します。

ダイナミックな無線環境の変化

 製造現場では、無線通信環境がしばしば変化します。例えば、工場内のレイアウト変更は頻繁に行われ、生産ラインの改良や新しい機械の導入、製造プロセスの変更に伴って、通信が必要なエリアや機器が変動します。

 工場の物理的な構造やレイアウトの変更だけではなく、日々の運用でも無線通信環境に影響を与える要因が多く存在します。例えば、金属製のシャッターは電波を反射するため、工場内のシャッターの開閉が頻繁に行われることによって無線通信環境が変化します。さらに、倉庫内の在庫が増減することで物理的な障害物も変動し、電波伝搬に影響を与えます。

 その他、固定された通路やゲートを通じて、作業員やフォークリフト、AGV(無人搬送車)が頻繁に移動することも考慮する必要があります。このような人や車両の出入りが集中するエリアでは、電波の反射や吸収が起こりやすい状況になります。

多様な無線環境

 製造現場における無線通信環境は、工場の規模や業種、立地条件によって異なります。例えば、金属製の構造物が多く存在する工場では、電波の反射が起こりやすい状態です。これに対して、プラスチックや木材など電波を透過しやすい材質が多い工場では、無線の範囲が想定より広がることが多くなります(広がりすぎると干渉の発生などに影響します)。

工場の業種/規模の区分例[クリックで拡大]出所:NEDO

 さらに、工場が都市部に位置していたり、隣接する他の工場が無線通信を使用していたりする場合、外部からの電波干渉が発生することがあります。

 特に、2.4GHz帯はWi-FiやBluetoothをはじめとする多くの無線機器で利用されている他、電子レンジなどでも利用されている周波数となります。常に混雑している周波数帯ですが、干渉回避のために敷地外から来る電波に対して発射を制限させるといったことはできません。

異種システムの混在

 工場の無線通信環境では、複数の異なるシステムが混在していることが一般的です。各システムはそれぞれの目的や用途に応じて個別に最適化されていますが、工場全体で使用される周波数帯や無線通信の最適化は行われていないことが多く、その結果として電波干渉や通信トラブルが発生しやすくなります。

 例えば、ある製造ラインで2.4GHz帯のWi-Fiを用いてモニタリングやデータ通信が行われており、隣のラインではBluetoothを使ったポカヨケなどの機器間短距離通信が行われることがあります。さらに、AGVがWi-Fiを使いながら移動していることもあります。

 このように、各システムが異なる目的で設置され、その導入タイミングも異なる場合は、無線通信の全体の最適化に目が届かず、周波数帯が競合した結果、電波干渉が発生することがあります。

製造現場における無線通信環境への影響要因への対応

 製造現場における無線通信環境の構築、運用では、「距離」「見通し」「マルチパス」「電波干渉」の4つの要因を考慮することが特に重要です。以下では各要因への対応の考え方を解説します。

「距離」への対応

 無線通信の性能は、通信距離に大きく依存します。アンテナと受信機器間の距離が広がることで電波の強度が弱まり、通信品質が低下します。距離が広がることは一方で、電波干渉のリスクを減らすことにもつながります。

 通信距離が長くなっても安定した通信を維持するためには、アンテナやAP(アクセスポイント)を適切な場所に設置し、必要に応じてレピーター(中継器)を設置することが効果的です。また、広範囲の通信が求められる現場は、長距離通信が可能な規格(ローカル5Gなど)を導入することで、距離に関わる問題を解決できます。

「見通し」への対応

 製造現場には、壁や金属製の機械など通信の妨げとなる多くの障害物が存在し、電波伝搬に影響を与えます。また、レイアウトの変更や新しい設備の導入に伴い、見通しが悪くなり通信が途絶える場合があります。

 このため、障害物の材質に応じてアンテナを高い位置に設置してみたり、障害物の少ない場所に配置してみたりなど、見通しを確保することが重要です。特に、レイアウト変更の可能性の有無や、在庫などの変動による見通しの変化なども考慮しておくことが必要になります。加えて、遮蔽(しゃへい)物を回避するために、レピーターや反射板の使用も効果的です。

「マルチパス」への対応

 製造現場では、電波が壁や金属製の機械に反射することで、同じ電波が複数の経路を通って受信機に届くマルチパスが発生します。特に、金属製の設備が多い現場では反射波が多く、通信品質が低下する要因となります。

 これを避けるには、事前にシミュレーションや現場テストを行い、反射波が発生しにくい場所を見つけ、アンテナと受信機を適切な位置に配置することが求められます。

「電波干渉」への対応

 基本的な干渉回避の方法は、周波数帯(チャネル含む)を分ける、時間を分ける、距離を空けることです。そのためには、無線機器の導入台帳やスペクトラムアナライザーによる現場計測などで、事前に周波数の使用状態を把握することが必要になります。

 その結果、周波数帯を分けるという選択肢を採る場合、例えば、2.4GHz帯が使われていれば、5GHz帯やローカル5Gの利用により、干渉を回避できます。また、使用するチャネルの管理を徹底することで、周波数帯の競合を避け、通信の安定性を保つことも有効です(チャネルを自動変更する機器の場合は、固定化するなどの対応も必要です)。

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