オムロンは、米国のITサービス企業コグニザント(Cognizant)と戦略的パートナーシップ契約を締結した。コグニザントの幅広いデジタルテクノロジーによるサービスとオムロンの高品質な現場データの収集力を融合することで、工場のスマート化を実現するエンドツーエンドのソリューションの実装、運用、保守を提供していく。
世界中の工場を接続し、情報をリアルタイムで共有することで効率的な生産を実現する工場のスマート化を中心とした「インダストリー4.0(Industry 4.0)」――。その実現に向け「機は熟した」と語るのがオムロンだ。同社は2025年4月8日、独自のワンストップソリューション提供に向け、米国のITサービス企業コグニザント(Cognizant)と戦略的パートナーシップ契約を締結したと発表した。コグニザントのIT技術とオムロンの高品質な現場データの収集力を融合することで、工場のスマート化に向けたエンドツーエンドのソリューションの実装、運用、保守を提供していくという。
コグニザントはAI、IoT、クラウド、デジタルツイン技術などのITサービスを提供し、多岐にわたる業界のDX(デジタルトランスフォーメーション)を支援するグローバルITサービス企業だ。
今回の提携では、オムロンの20万種類以上の製品ラインアップを通して高品質なフィールドデータを収集し、コグニザントのアプリケーションプラットフォーム「Asset Performance Excellence(APEx)」やインダストリー4.0/5.0の考えを含んだ成熟度評価ツール「OnePlant」による製造業向けコンサルティングで活用する。データと管理情報を組み合わせることで、IT側で問題/課題を分析し、その改善について経営視点で優先順位付けが行えるよう支援する。また、オムロンの制御アプリケーションやi-BELTデータ活用サービスを通じて結果をフィードバックし、顧客と協働しながら、経営課題につながりかねない現場課題にも包括的に対応するとしている。
オムロンの社長である辻永順太氏は「ITの領域に強いコグニザントと、OTの領域に強いオムロンが連携し融合することで、インダストリー4.0/5.0の世界観が実現できると確信している」と今回の提携の狙いを語っている。
2011年にドイツのハノーバーメッセで「インダストリー4.0」が提唱され10年以上がたつが、なかなか実現に至っていないのが現在の製造業の実情だ。オムロンのインダストリアルオートメーションビジネスカンパニーのカンパニー社長である山西基裕氏はその実現を妨げる3つの大きな課題の存在を挙げ、「オムロンとコグニザントは、この壁を突破する最初のプレーヤーになることを目指している」と語った。
1つ目の課題は、ITシステムのサイロ化。つまり、情報やリソースが部門ごとに、もしくは工場ごとに閉じ込められ、共有されていない状態だ。同じ会社内でも工場ごとに異なる生産品目やKPIなどがあり、各工場や各部門が独立に進化してきた結果、工場間や組織間で別々のITシステムが孤立し、情報の流れが制限されている。山西氏は「この課題を解決するには、全拠点のITシステムを全体最適で刷新する必要があるが、莫大な投資が必要なため、現実的ではない」と説明した。
2つ目は、OT側の古い生産ラインや装置だ。多くの工場では、20年以上前の設備が稼働しているため、最新技術を追加しリアルタイムデータを収集するのは困難だ。そして全てを最新設備に更新するには莫大な投資が必要となる。また、OT現場では1000分の1秒単位、もしくは100万分の1秒単位でリアルタイムに装置を稼働することが求められるうえ、各装置のデータ形式および、収集タイミングも異なる場合が多い。「このようにデータが無秩序に存在するため、データ欠損が生じ、IT側で有効活用や意思決定ができる必要なデータの信頼性が欠けている」と山西氏は述べる。
3つ目は、ITとOTはデータの収集頻度や形式、システムが異なることから、技術的な結合が困難という問題だ。山西氏は「ITはデータ管理やビジネスプロセスの最適化を重視する一方で、OTでは生産性や稼働率の向上を目指している。目指す価値や必要な能力が異なるために、ITとOTは別々の会社でアプローチしており、結合には大きな能力の壁がある」と説明した。
オムロンはコグニザントとの提携によってこの3つの課題を克服し「ITとOTの融合を進めることで、情報の流れをスムーズにし、製造業の競争力を向上させる。これにより、企業は市場の変化に迅速に対応して、持続可能な成長を実現できる」と強調。「本質的なインダストリー4.0実現のためのピースがそろった」と述べた。
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