では、具体的にITレイヤーとOTレイヤーおよび、ITとOTの融合という3つの領域でどのように対応していくのか。
まず、OTレイヤーでは、生産現場でのDX実現を挙げる。山西氏は「オムロンは20万点以上の自動化設備を構成する全ての幅広い機器を持つ唯一の制御機器メーカーだ。そして、各機器はIoTデバイスの機能を備えている」と強調。古い機器にそれらを追加することで、現場の全データをリアルタイムに収集可能となり、生産現場の可視化を実現。迅速な意思決定が可能となるとしている。ここでは自社だけでなく他社製品からもデータを収集可能であることが大きな優位性になっているとも強調していた。
そして生産現場でのDX実現をベースに、生産現場におけるITとOTの融合を実現するのが、両社が共同で開発した「バーチャルコントロールプラットフォーム(以下、VCP)だ。VCPは、製造現場にある複数の装置やロボットからのデータやソフトウェアとITデータを仮想的に束ね、その仮想空間から現場の常時監視やレシピの入れ替えを自由にできるプラットフォームで、辻永氏は「今回の提携で大きな肝になるもので、現場と経営をつなぎ、ボトルネックの特定から改善策の立案、実行までをこれまでにないスピードと精度、確実性で実行していく」と強調していた。
このVCPについて、山西氏は、代表的な価値として3つを紹介した。1つ目は「ハイプレシジョン・シンクロナイゼーション」だ。1000分の1秒や100万分の1秒単位のOT側のさまざまなデータを、同じデータベースに時系列にそろえて統制し、IT側が処理しやすい形にして結合。これによって、例えば製品1個単位のカーボンフットプリントやトレーサビリティーが実現できるという。また、生産現場のデータをミリ秒単位でリアルタイムに収集/統制/分析し課題を特定することで、ラインを止めずに制御プログラムをアップデートし、生産性や環境対応の向上が可能となる。
2つ目は「リアルタイム・オーケストレーション」だ。外部環境の急激な変化に応じて、IT側で行われる意思決定(例:生産工場の変更や生産品目の変更など)に基づき、仮想空間で生産現場の工程やプロセス、さらに1000分の1秒単位での装置の制御プログラムなども迅速にシミュレーションし、これに基づき、実現場を変化対応させる。山西氏は「特に重要なのは、生産現場の生産性を高めつつ、最適なラインバランスを確保し、既存の生産に影響を与えない形で、各ラインや装置を1000分の1秒単位でコントロールし、変化対応できる点だ」と説明。このプロセスは、ハイプレシジョン・シンクロナイゼーションも同時に適用され、データの整合性が保たれ、リアルタイムでの最適化を実現。「これによって製造現場は柔軟に変化に対応し、市場ニーズに迅速に応えることが可能になる」としている。
3つ目は、FA環境でも使用可能にしたロバスト性だ。VCPはIT側の技術も活用しているが、これを過酷な生産現場で一切の制限なく使用できるよう設計した。従来、物理的に離れたIT側のPCからOT側のミリ秒単位の装置制御や莫大なデータの処理は難しかった。また、IT用のPCを製造現場に持ち込むと、振動や衝撃、温度変化、ほこりなどへの対応が困難だが、VCPはこれを克服。ソフトウェアの観点でも、ブルースクリーンやセキュリティアップデートによる誤作動といったWindowsなどのOSの影響を受けることなく、生産継続に必要な制御エンジンを実行できるソフトウェアを独自に開発したとしている。
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