では、これらの業務機能をどのようにSCM組織に担わせるべきだろうか。まずは複数の事業部を有する事業部制企業で、よく見られるSCM組織配置の3つのケースを比較しながら考察したい(図2参照)。
最近ではあまり見られないが、かつては各事業部内の機能部門内(製造部門または販売部門など)の一部署としてSCM組織を配置するケースが散見された。こうした組織配置の場合、事業や組織を跨いだ視点や立場が必要となる業務全般を担うことができない。唯一、サプライチェーン計画業務の担い手となることは可能だが、この場合も所属するいずれかの機能部門の方針に縛られ、適切な計画立案〜アロケーションによる需給を合理的にバランスさせることが難しい。
各事業部にSCM組織を配置するケースでは、事業部内のサプライチェーン横断的な需給バランスが利きやすくなる一方で、全社的な視点が不可欠なSCM戦略立案を担うことはやはり難しいままだ。事業部に配置されたSCM組織がSCMプロセス整備やSCMパフォーマンス管理を担うケースもあるが、他事業との比較の視点を持てないため、部分最適の業務プロセス設計やその視点からのパフォーマンス評価に陥りやすい。
一方、コーポレート機能としてSCM組織を配置するケースでは、全社視点必須の戦略立案やスケールメリットが求められるCoE系の業務機能は担務しやすいものの、事業からの距離が大きくなるため、需給マネジメントなど事業運営に沿った実務を担うことは事実上困難だ。
SCM組織が担うべき業務機能と、組織配置パターンそれぞれの長所/短所を踏まえると、結局SCM戦略を理想的な形で実務に反映するには、コーポレートと、事業部のそれぞれにSCM組織を配置し、各組織配置のウイークポイントを相互に補完できる体制にすることが望ましい(図表3)。
コーポレートに配置するSCM組織(SCM戦略組織)は、「SCM戦略立案」および「CoE」をコア業務機能としながらも、事業部に配置したSCM組織の統制を通じて、各事業部の「SCMプロセス/ルール整備」や「SCMパフォーマンス管理」にも間接的に関与する。一方事業部側のSCM組織は、事業運営に沿った「需給マネジメント」をコア機能としつつ、SCM戦略組織と連携して、「業務プロセス/ルール整備」と「SCM業務パフォーマンス管理」に関わる機能も担う。
SCM組織を2つに分けることで懸念される業務プロセスの冗長化やそれに伴う要員数増加は、2つの組織のコア業務をメリハリをつけて配置すること、需給マネジメントがメインとなる事業部側のSCM組織のコア人材は、現在の需給業務担当者を配置するなどで抑制できる。
このように、2種類のSCM組織が、それぞれ適切に配置された業務機能を発揮することで、企業のSCMは、その戦略方針を自律的に立案〜修正しつつ、各事業に沿った標準業務のパフォーマンスを適時に評価することで、業務改善PDCAを継続的に回し続けることができるはずである。
最終回では、次世代のSCMを支える人材の必要性とその育成について述べたい。
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