東京大学は、がん細胞が骨に近づくと骨膜の細胞が反応して防御壁を形成し、物理的にがんの骨への進展を抑えることを明らかにした。免疫系以外の細胞が抗がん効果を持つという、新しい抗がん機構を示したのは世界初になるという。
東京大学は2024年8月22日、がん細胞が骨に近づくと骨膜の細胞が反応して防御壁を形成し、物理的にがんの骨への進展を抑えることを発見したと発表した。免疫系以外の細胞が抗がん効果を持つという、新しい抗がん機構を示したのは世界初になるという。
頭頸部がんの最も多い発生部位として知られる口腔粘膜は、直下に顎骨が存在するユニークな粘膜バリア部位だ。口腔がんは、骨浸潤により患者の生命予後とQOLが顕著に悪化する。
今回の研究では、口腔がんの骨浸潤における骨膜の機能に着目し、東京大学医学部附属病院で手術を受けた口腔がん患者の検体を詳細に解析した。その結果、腫瘍が骨に近接した浸潤前組織では、骨膜の厚みが3〜4倍に増加することが明らかとなった。
新たに開発した口腔がん骨浸潤マウスモデルを用いた解析でも、腫瘍が近接した骨組織では骨膜細胞が増加していることが示された。また、遺伝子発現パターンも大きく変化していた。
がん細胞の骨への近接に伴って骨膜細胞で最も発現が上昇した遺伝子は、プロテアーゼ阻害因子Timp1だった。Timp1欠損マウスでは、腫瘍の近接に伴う骨膜肥厚が完全に阻害された。また、Timp1欠損マウスの骨浸潤は著しく進行し、野生型マウスと比べて早期に死亡した。
今回の結果から、骨膜細胞が腫瘍近接に応じてTimp1を放出し、腫瘍微小環境のプロテアーゼを阻害することでコラーゲンを中心とした細胞外基質の蓄積を促すことが明らかとなった。骨膜が肥厚するため、物理的に腫瘍の進展が抑制される。
数多く研究されている血行性がん骨転移と異なり、骨浸潤では腫瘍が骨膜を超えて骨内部に侵入する。口腔がん骨浸潤の分子メカニズムに関しては不明な点が多く、これまで骨膜の機能に関しては報告がなかった。
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