パリ五輪のAIが拓く健康とウェルビーイングの市場海外医療技術トレンド(110)(1/4 ページ)

本連載第79回および第102回で、フランスのデジタルヘルス戦略を取り上げたが、今回は、2024年パリオリンピック・パラリンピック競技大会にまつわるAI(人工知能)駆動型健康/ウェルビーイング市場の動きに注目する。

» 2024年08月16日 07時00分 公開
[笹原英司MONOist]

 本連載第79回および第102回で、フランスのデジタルヘルス戦略を取り上げたが、今回は、2024年パリオリンピック・パラリンピック競技大会にまつわるAI(人工知能)駆動型健康/ウェルビーイング市場の動きに注目する。

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エストニアを起点とするEUのスポーツ×健康/ウェルビーイング戦略

 欧州委員会の教育・青少年・スポーツ・文化コミッショナー、保健・食品安全コミッショナー、農業・地域開発コミッショナーの3者は、2017年9月23〜30日にエストニア・タルテュで開催された「2017年欧州スポーツウイーク」の中で、「健康なライフスタイルのためのタルテュコール」を発表した(関連情報、PDF)。

 タルテュコールでは表1のような課題認識が示されている。

表1 表1 「健康なライフスタイルのためのタルテュコール」における課題認識[クリックで拡大] 出所:European Commission「Tartu Call for a Healthy Lifestyle」(2017年9月23〜30日)を基にヘルスケアクラウド研究会作成

 健康なライフスタイルは、保健医療科学だけでなく社会経済に大きなインパクトを及ぼすという利点がある反面、その実現のためには、保健医療、スポーツ、教育、食品など、個々の既存セクターの枠を超えたアプローチが欠かせない。タルテュコールでは、EUをよりアクティブで健康的にするために、以下の15項目へのコミットメントを呼びかけた。

  1. 可能な限り学校のような特定の施設に焦点を当てて、Erasmus+プログラムのスポーツ憲章に基づく身体活動の促進プロジェクト向けの資金調達を拡大する
  2. 健康なライフスタイルの便益に対する認識を促進し向上させるような革新的アプローチを構築/後押しするために、欧州イノベーション・技術機構(EIT)、EITヘルス、EITフードの支援を受けた知識/イノベーションコミュニティーを推奨する
  3. 欧州スポーツウイークを活用し、特に子ども、高齢者、不利益な背景を有する人々の間で健康なライフスタイルを促進する
  4. パートナーシップの構築/発展において、特に学校やスポーツクラブを支援することによって、子どもや若者の間の健康なライフスタイルを促進する
  5. 2017年8月にスタートしたEU学校給食用果実/野菜/牛乳スキームを促進し、農産物の学校への配送と、教師用リソースパックのような一連の付随的な教育活動を通じて、健康な食事の形成に寄与する
  6. 農産物の促進に関する毎年恒例の呼び掛けを通じて、健康な食事の習慣を促進するキャンペーンを支援し、果実や野菜の消費を拡大する(例:1日5食キャンペーン)
  7. 健康なライフスタイルと関連する資金調達の促進活動を調整するために、関係する欧州委員会のサービス間の協働関係を追求する
  8. 例えば、国民レベルの身体活動フォーカルポイントネットワークと栄養と身体活動に関するハイレベルグループネットワークの共同会合を通じて、保健およびスポーツのネットワーク全体における対話を強化し、その他の関連する欧州委員会のサービスに対して参加するよう推奨する
  9. 欧州スポーツウイーク、2017〜2020年EUスポーツ作業計画で予定された保健強化の身体活動に関するクラスター会議、EUスポーツフォーラム、ベルリン国際グリーンウイーク、パリ国際農業ショーなど、欧州委員会が運営するイベントやカンファレンスを通じて、健康なライフスタイルを促進する
  10. 栄養と身体活動に関する政府代表者と食事/身体活動/保健向けEUプラットフォームによるハイレベルグループにおける優先課題として、身体活動を含める
  11. 欧州議会、特に文化・教育委員会、環境・公衆衛生・食品安全委員会、スポーツグループ間において、健康なライフスタイルに関する定期的な対話を維持する
  12. 関連する欧州委員会のフォーラム内で、保健指標に関する既存のデータ収集だけでなく、介入や活動に関するデータ、特に身体活動、不健康な食事、保健アウトカムに関するデータを向上させるために、適切なメカニズムを特定する
  13. 研究を深化させ、保健だけでなく、何がライフスタイルの選択を主導するのか、どのようにして異なる社会経済グループにおける社会アウトカムに影響を及ぼすかに関して、人々の態度や習慣に関する新たな知識を収集する
  14. 保健強化の身体活動に関する最新の国別ファクトシートを発行し、グッドプラクティス(一般プラクティショナーによる身体活動の処方を許可/推奨するためのイニシアチブなど)を収集、共有、実装する。特に、費用対効果のある保健増進/疾病予防対策(身体活動の取り組み)向けのグッドプラクティスを特定し、この情報を健康増進、疾病予防および非感染症管理に関する諮問グループにつないで、加盟国によるこれらのプラクティスの実装を支援する
  15. 職場の保健増進に寄与するような職場における身体活動に関する研究を実行する

 このような推奨事項が、その後の欧州における健康/ウェルビーイング政策の柱となっている。本連載第30回で触れたように、タルテュコールが発表された2017年下半期には、当時EU理事会議長国を務めるエストニア政府を中心に「デジタルヘルス社会宣言」を発表している(関連情報)。また、第108回で触れたように、タルテュはエストニアバイオバンクの本拠地であり、2018年1月1日にはエストニアゲノミクス研究所が新設されている。当時のエストニアを起点にすると、健康/ウェルビーイング、デジタルヘルス、バイオテクノロジーなどさまざまなイノベーションの背景が見えてくる。

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