このような流れの中、IOCは、2024年4月19日、「オリンピックアジェンダ 2020+5」の後継戦略となる「オリンピックAIアジェンダ」を発表した(関連情報)。このアジェンダは、2023年にIOCが設置したAIワーキンググループ(産業界からはデロイト、インテル、Endjin、EPFL、アリババが参加)を中心に策定されたものであり、以下のような構成になっている。
これらのうち「注目領域1:アスリート、クリーンな競技、安全なスポーツの支援」に関連して、IOCは2024年5月7日、パリオリンピック・パラリンピック競技大会期間中、ソーシャルメディアの悪用からアスリートや関係者を守るために、AIを利用したサービスを提供することを発表した(関連情報)。このサービスは、IOCのアスリート委員会と医科学委員会が共同開発したシステムを利用しながら、主要ソーシャルメディアのアカウントを、35以上の言語でリアルタイムにモニタリングして、識別した脅威にフラグを付け、各ソーシャルメディアプラットフォーム事業者が効率的に処理できるようにするものである。実際、SNS上での誹謗中傷に対して日本選手団が声明を発表する(関連情報)など、アスリートのオンライン保護が喫緊の課題となっており、AIの有効活用が期待されている。
また、2024年7月18日には、米国インテルが、IOCとの協働関係の詳細および産業駆動型生成AI(GenAI)検索拡張生成(RAG)ソリューションに関する発表を行った(関連情報)。インテルは、IOCのアスリート委員会がアスリートおよびサポートするオリンピアンのために開発/運用するモバイルプラットフォーム「Athlete365」(関連情報)上で稼働する、Gaudi AI アクセラレーターとXeonプロセッサをベースとしたRAGソリューションの生成AIチャットbot「AthleteGPT」を紹介している。図1は、このRAGソリューションの全体フローを示したものである。
GenAI RAGソリューションは、Linux Foundationが提唱するOPEA(Open Platform for Enterprise AI)基盤上に構築された、オープンソースで相互運用性のある汎用AIシステムである。GenAIターンキーソリューションは、データセンター内にあるエンタープライズ向けRAGソリューションをデプロイするために、簡素化されたアプローチを提供する一方、非常に柔軟でカスタマイズできるように設計されており、複数のOEMシステムや産業パートナーが提供するカタログから、コンポーネントを統合する。
OPEAベースのGenAIターンキーソリューションは、本連載第61回や第108回で触れたように、クラウドネイティブなコンテナ/マイクロサービスコンポーネント(Kubernetes、Red Hat OpenShiftなど)や標準化されたAPIを、Gaudi/XeonベースのAIシステムにデプロイできるよう設計された拡張性のあるRAGソリューションに統合する。インテルの最新プロセッサ製品は、本連載第73回で取り上げたハードウェア対応セキュリティ技術をサポートしており、プラットフォームセキュリティのさらなる強化が可能である。
2024年7月25日付Nature誌によると、「AthleteGPT」では、フランス・パリのスタートアップ企業Mistral AIが開発した大規模言語モデル(LLM)が、24時間対応FAQサービスに利用されている(関連情報)。その他、Nature誌では、AIを利用した3Dアスリート追跡(3DAT)技術や、リアルタイムデータとAIによる審判判定支援技術、高度解析を駆使した五輪テレビ観戦体験強化技術を取り上げている。
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