米国で急速に進む医療XRと5G/エッジコンピューティングの融合海外医療技術トレンド(73)(1/3 ページ)

本連載第71回で、米国の医療AIの市場動向を取り上げたが、今回は医療分野の拡張現実(AR)/仮想現実(VR)と5G/エッジコンピューティングの適用動向を紹介する。

» 2021年07月16日 10時00分 公開
[笹原英司MONOist]

 本連載第71回で、米国の医療AI(人工知能)の市場動向を取り上げたが、今回は医療分野の拡張現実(AR)/仮想現実(VR)と5G/エッジコンピューティングの適用動向を紹介する。

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5G/エッジコンピューティングで注目される医療XR

 2020年3月5日、AT&TとGoogle Cloudは、企業向けネットワーク5G/エッジコンピューティングのソリューションに関して連携することを発表した(関連情報)。両社は、ビジネス課題に取り組む企業を支援するために、AT&TのネットワークとGoogle Cloudの最新技術(例:Kubernetes、AI、機械学習(ML)、データ分析など)、さらにエッジコンピューティングを組み合わせた5G/エッジコンピューティングソリューションのポートフォリオを提供することを目的としている。また、新規ソリューション開発に加えて、独立系ソフトウェアベンダーやソリューションプロバイダー、デベロッパーおよびその他のテクノロジー企業が、AT&T Network EdgeやGoogle Cloudと自社機能を組み合わせた新規ソリューションを開発できるようにするために連携するとしている。

 それから約1年4カ月後の2021年7月6日、両社は、5Gネットワークとエッジコンピューティングの技術領域における業種横断的なソリューション提供で、連携を強化することを発表した(関連情報)。連携対象となる技術として、AT&Tのオンプレミス型マルチアクセス・エッジコンピューティング(MEC)ソリューションや、LTE、5G、有線に渡るAT&Tネットワークエッジ機能と、Google Cloudのエッジコンピューティングポートフォリオを挙げている。

 特に注目されるのが、Google MapやAndroid、スマートフォンの「Pixel」に加えて、ARやVRなど、現実世界と仮想世界を融合した技術(XR)を利用した機能の拡張だ。具体的な事例として、以下のようなケースを挙げている。

  • 盗難防止、群衆コントロール、キュー予測管理により、業界横断的に企業を支援するビデオ分析サービスを可能にする
  • 小売:在庫管理を簡素化・自動化し、業務におけるリアルタイムに近い視認性のために、従来型店舗と電子商取引やバックエンドシステムを接続する
  • 医療:患者の自宅またはオンサイト施設のいずれかから、遠隔診療向けAR/VRを利用して、遠隔医療に基づく治療法のようなサービスへのアクセスを拡大する
  • 製造:工場の位置での遠隔サポートや品質コントロールチェックにより、業務を加速させ、デバイス上よりもエッジでのビデオ配信により、帯域幅利用を最適化する
  • エンターテインメント:夢中にさせるAR/VR体験や、スマートパーキング、チケットなしの入場、非接触型の食事・土産の支払いに至るまでのソリューションによって、コンサートやスポーツイベントの会場内での体験を強化する

MXR機器のレギュラトリーサイエンス研究に取り組むFDA

 医療分野では、2021年4月26日、グローバル医療機器企業のメドトロニックが、カリフォルニア州ロサンゼルスの医療拡張現実(MXR)機器スタートアップ企業であるサージカルシアターとの戦略的提携を発表している(関連情報)。具体的には、サージカルシアターのAR技術「SyncAR」と、メドトロニックの術中ナビゲーションシステム「StealthStation S8」を組み合わせて、手術室における正確性や効率性を強化するとしている。現時点では、XR技術の院内治療への適用が主流だが、今後、5G/エッジコンピューティング技術基盤が普及するにつれて、在宅治療や健康増進活動への拡大が期待される。

 また、AR/VR技術を利用した医療機器の開発促進に向けて、米国食品医薬品局(FDA)が、2020年3月5日に「医療の拡張された現実:医療の仮想/拡張現実に関する最善の評価プラクティスに向けて」(関連情報)と題する公開ワークショップを開催している。

 翌2021年3月には、FDAの医療機器・放射線保健センター(CDRH)が、安全で有効性のある革新的な拡張現実ベースの機器に、患者が確実にアクセスすることを目的としたレギュラトリーサイエンス研究の一環として「医療拡張現実機器プログラム」(関連情報)を発表している。

 同プログラムでは、レギュラトリーサイエンスにおけるMXR機器のギャップや課題として、以下のような点を挙げている。

  • 介入手順や外科、リハビリテーションなど、異なる重要な医療への適用に関する特性や評価の手法がない、広範囲なMXRプラットフォーム
  • MXRプラットフォームが利用する加速度計、慣性計測装置、カメラなど、臨床上の使用状況に関する妥当性を評価していない消費者グレードのセンサー
  • 外科や診断への適用における機器の安全性や有効性に影響を及ぼす認知負荷など、機器のユーザビリティを評価するツールの不足/欠如

 その上で、MXR機器プログラムについて、以下のような注力領域を挙げている。

  • MXR機器の画像品質特性
  • MXRセンサーの特性
  • MXRの介入手順および外科への適用
  • 認知負荷、映像酔いなど、ユーザビリティの定量評価
  • MXRで使用する表示ハードウェアや消費者グレードのHMD(ヘッドマウントディスプレイ)プラットフォームを特性化する手法およびツール
  • MXR向けの受容可能な要求や妥当性のある技術機能の特定を支援するデータ
  • 最新のMXR機器の安全性や有効性を評価するために必要な測定基準
  • ユーザーの映像酔い効果を低減または回避するための戦略

 なお、XR技術全般の標準化に関連して、本連載第14回で触れたヘルスケアシステムのサイバーセキュリティ向けに「UL 2900-2-1」プログラムを提供するULが、拡張/仮想/複合現実(AR/VR/MR)技術機器の安全性規格となる「UL 8400」の開発に取り組んでいる(関連情報)。

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