水素ガスによる高効率なアルミ合金溶解技術開発へ ヤマハ発動機が実証施設を新設脱炭素(1/2 ページ)

ヤマハ発動機は、水素ガスに対応する溶解炉と熱処理炉を備えた実証施設を、オートバイクや船外機の小型部品を製造する森町工場(静岡県周智郡森町)に新設し、水素ガスを用いたアルミ合金溶解技術の開発/検証をはじめとする実証実験を2025年9月頃から開始する。

» 2024年07月12日 07時30分 公開
[遠藤和宏MONOist]

 ヤマハ発動機は2024年7月10日、オンラインで記者会見を開き、水素ガスに対応する溶解炉と熱処理炉を備えた実証施設を、オートバイクや船外機の小型部品を製造する森町工場(静岡県周智郡森町)に新設すると発表した。

実証施設のイメージ 実証施設のイメージ[クリックで拡大] 出所:ヤマハ発動機

ヤマハ発動機が採用している重力鋳造工程とは?

 ヤマハ発動機は2021年7月に「ヤマハ発動機グループ環境計画2050」を策定し、目標として2050年までにカーボンニュートラルの達成を掲げている。その後、2022年6月には「Scope1(燃料の使用や工業プロセスでの直接排出の温室効果ガス排出量)」と「Scope2(他社から供給された電気、熱、蒸気の使用に伴う温室効果ガスの間接排出量)」のカーボンニュートラル達成時期を15年前倒しし2035年とした。

ヤマハ発動機の「Scope1」と「Scope2」の目標 ヤマハ発動機の「Scope1」と「Scope2」の目標[クリックで拡大] 出所:ヤマハ発動機

 ヤマハ発動機グループ全体におけるScope1とScope2のエネルギー割合は約3割が化石燃料で、これらの多くは熱を使用する工程で利用されている。同社グループの地域別におけるScope1とScope2のCO2排出割合は日本とインドネシアでグループ全体の55%を占めている。

 同社グループの国内におけるScope1の工程別CO2排出割合では、全体の55%を鋳造工程が占めており、そのため同社では鋳造工程でのCO2排出量削減技術の開発に注力している。

ヤマハ発動機のCO2排出割合 ヤマハ発動機のCO2排出割合[クリックで拡大] 出所:ヤマハ発動機

 ヤマハ発動機が採用している重力鋳造工程は、まずアルミニウム合金のインゴットを溶解炉で溶かし成分を調整しつつ、溶湯(固体の金属に熱を加え高温にして溶解し液体状態としたもの)とする。次に、砂を樹脂で固めた「中子(なかご)」を予熱した金型に組み付ける。続いて、鋳造機を起動し、溶解炉からホッパーに溶湯(ようとう)を供給する。その後、金型を閉じてホッパーとともに回転させて、金型の注入部分にホッパーを介して溶湯を注ぐ。溶湯が冷えて固まった後、金型を回転前の状態に戻して開き、中の鋳物を取り出す。

 続いて、鋳物にハンマーなどで衝撃や振動を与えて中子を砕いて砂を落とした後、製品として不要な部分を切断する。最後に熱処理を行い鋳物の金属組織を整え製品として必要な強度を備える。なお、砂落としで残った中子はこの熱処理で樹脂成分を分解し取り除く。

ヤマハ発動機の重力鋳造工程の概要 ヤマハ発動機の重力鋳造工程の概要[クリックで拡大] 出所:ヤマハ発動機
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