デジタルツールを駆使することは業務の効率化に欠かせません。ここで重要なのは、単なる業務のデジタル化で終わってしまうのではなく、デジタル活用によって仕事のやり方やプロセス、仕組みを変えて、変革につなげることです。筆者も関わっている樹脂成形を例に説明します(図3、図4)。
筆者が所属するスワニーには、製品データを受け取ってから出荷まで、デジタルで仕事を行う“一気通貫”の仕組みがあります。ここでのデジタルツールの活用は繰り返される業務によって“技能”として培われますが、その中には属人的な手法も含まれることがあります。こうした部分は、経験を積み、技能として身に付いた熟練設計者にとって“当たり前”のことですが、新人設計者にとっては“疑問”となるのです。
例えば、
といった疑問です。
金型設計の経験者(熟練設計者)にとっての“普通のこと”“当たり前のこと”の中には、経験で培われた“属人的なモノ”が含まれることもあるため、それを言語化して新人設計者に説明するのが難しいケースもあります。機械設計の経験が長い筆者も、新人設計者からの質問に対して、経験に基づく感覚的な回答をすることの方が多かったように思います。"誰もが熟練設計者と同じように設計できる”ようにするのであれば、この部分を標準化する必要があります。
具体的には、熟練設計者の技能を標準として落とし込み(標準化し)、科学的知識や工学的知識(技術)との連携を行うことが必要です。そして、これと同時に、デジタルデータを使うデジタルマニュファクチャリングの環境は、誰もが同じように、高品質なモノづくりを実現する上で必要不可欠なものとなります。
標準化は、設計を制限したり、単に製品構造を模式化したりするものではありません。デジタルツールの導入やデジタルマニュファクチャリング環境の構築、そして、それらを使いこなす技能や最新技術の知識を備えた設計者たちの連携の下、創造性を失うことなく実現できるものだと筆者は考えます。
労働人口が減少し、深刻な人材不足に陥る日本の製造業ですが、特に中小企業ともなると、慢性的に人手が足りず、教育に時間を割くことさえできない状況になりつつあります。このままでよいのでしょうか。これでは加速度的に成長する海外企業には勝てないと筆者は危惧しています。次回は、日本のモノづくりについて「デジタル」をキーワードに再考したいと思います。 (次回へ続く)
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