自動車は多くのサプライヤーが供給する部品によって成り立っている。材料の重量、材料製造時のCO2排出、材料製造コストなど、さまざまな面でサプライヤーが関わっている。リソースサーキュレーションの検討も、サプライヤーと一体となって進めていくことが不可欠だ。
これまでの車両開発はサプライヤーに要求仕様を提示することがメインだったが、今後は素材メーカーと連携し、使用済み車両由来の資源を供給できるサプライチェーンを構築していく考えだ。
水平リサイクルを実現する課題となっているのは、自動車メーカーがリサイクル材の使用をあまり要求していないことや、それに伴ってリサイクル材が他産業に流れてしまうことだ。当然、自動車で使用可能な品質のリサイクル材も市場にはない。
新車が市場に出るまでの「動脈領域」では、要求リサイクル率の提示や、循環に適した材料選定や構造設計を進める。使用済み車両になったあとの資源としての流通にかかわる「静脈領域」では、解体業者やリサイクル業者と協力して水平リサイクルに適した品位のスクラップの回収や、経済合理性の確保に取り組む。
動脈領域と静脈領域が連携した実証実験が既に展開されている。テールライトなどに使われるアクリル樹脂の水平リサイクルだ。三菱ケミカルやホンダ、北海道自動車処理協同組合が共同で、使用済み車両のランプカバーなどからアクリル樹脂材を回収し、元の用途で再び使用する水平リサイクルの実証を行っている。再生したアクリル樹脂を自動車用部品に利用していくことを目指している。
ホンダは2050年にサステナブルマテリアル100%の実現を目指している。これを実現するには、リサイクル技術の創出だけでなく、省エネルギー化や低CO2排出、コスト低減などリサイクル技術の高度化も重要だ。
ホンダは2040年までに「技術準備率100%」を目指している。現状では既存の技術やリサイクル材の使用によって、サステナブルマテリアルの活用は60%まで引き上げられるという。これに加えて、リサイクル技術の高度化に関わる残り40%の領域を自前で開発することで「技術準備率」を100%とする。
バッテリーのリサイクルは韓国や中国で商業化されており、欧米でも取り組みが始まっている。「スタンダードな技術では硫酸塩を循環できるが、エネルギーとコストが課題となっている。将来的には、より短いプロセスで循環することが求められる」(多賀氏)とし、ホンダでは湿式製錬の改良技術やダイレクト循環技術の開発に取り組んでいる。
また、自動車に使用する多様な樹脂のうち、自動車業界はエンジニアリングプラスチックのリサイクル技術の確立に積極的に関与するべきだと訴えた。汎用プラスチックの需要は包装資材が大きなシェアを握っているが、エンジニアリングプラスチックでは自動車の需要が大きいためだ。
エンジニアリングプラスチックのリサイクルに関しては、劣化した樹脂をリセットするモノマー化技術を東レとともに研究開発している。臨界点よりもやや低い領域での水の特性を使って、有機化合物を加水分解する技術だ。酸を使わないことでクリーンなのが特徴だ。反応時間や投資コストの低さも強みとなる。
サステナビリティの取り組みは製品や素材の見た目では分からないが、取り組みは壮大だ。データを管理して取り組みを証明する情報管理やトレーサビリティーが重要になる。
トレーサビリティーに関しては、欧州をはじめとする法規制への対応と、経済合理性の創出の2つの切り口があるという。法規制では、バッテリーパスポートの他、循環性車両パスポート、永久磁石のリサイクル材使用率を証明するパスポートなどが要求される。カーボンフットプリントやデューデリジェンス、劣化状態などを証明することが重要だ。バッテリーに関しては、原材料やセル、組み立てまでサプライチェーンを通じた情報管理が求められるが、ステークホルダーの環境負荷低減が見える化され、社会的価値が分かりやすくなる。
ホンダは経済合理性を生み出せるトレーサビリティーの実現にも取り組む。経済的価値の見える化に関しては、バッテリーを寿命まで使い切るなど効率的な利用に貢献する。バッテリーの経済価値がどのくらい残っているのかを分かるようにし、寿命の予測なども行うことでリユースの用途やリサイクルに回すタイミングを判断していく。トレーサビリティーを活用する環境を構築するには、バリューチェーン全体での連携が不可欠だ。
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