本連載では、AMにおける品質保証と、その方法を標準化した国際規格ISO/ASTM 52920について解説する。今回は、自動車を例に工業製品における量産品質保証について考える。
品質保証は製造業において重要な要素です。近年、Additive Manufacturing(AM、3Dプリンティング技術)の普及が進み、量産への活用が始まったことにより、AMにおいても品質保証の重要性が高まっています。
AMは従来の製造プロセスとは異なる方法で製品を生産します。その結果、品質保証のアプローチも従来製法と異なり、新たな課題に直面しています。
本連載では、AMにおける品質保証と、その方法を標準化した国際規格 ISO/ASTM 52920について解説していきます。
連載トピック
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連載第2回となった前回は1つ目のトピック「品質保証」について、品質保証の仕組みである品質保証システムと、企業自体の顧客や品質を重視して経営する仕組みである品質マネジメントシステムについて考えました。ざっと前回をふりかえってみましょう。
第3回となる今回は、前回まで身近な例で考えてきた品質保証を、工業製品に置き換えて考えていきましょう。
前回、量産品という言葉を、試作品の対義語である本番品という意味に定義しました。では、量産品と試作品に対する品質要求の違いとは何でしょうか。
1つ目はエンドユーザーが存在するかどうかです。試作品は設計や開発での確認用途で作られます。つまり、図面通りにできて、試験や検査などに使われることがゴールになります。一方、量産品は、作られた後に(ほかの部品と組み合わされるなどして)販売され、実際に使うエンドユーザーが存在します。
AMの量産事例でよく見る、航空機の部品であれば、部品として量産された後、ほかの部品と組み合わされ、飛行機となって、実際にみなさんを乗せて空を飛ぶことになります。自動車の部品でも同様に、最終的には自動車の一部となって、みなさんが運転して道路を走ることになります。医療用のインプラントでは、それを体内に装着する患者さんがいます。
2つ目は納品後にやり直しがきくかどうかです。試作品は、試作した構造が良いかどうかを決定したり、どんな機能を実装したらよいかを文字通り試したりするために作るわけです。
そのため納品後にお客さまから「ここをもう少しこうしてほしい」と修正の依頼をすることもあるでしょう。あるいは、試作を依頼されたときに製造側が「これはかなり難しいけど何とかやってみましょう」と言い、「こんなもんでどうですか」「ここをもう少し仕上げてください」というようなやり直しが本質的に可能です。
このように量産品であるということは、エンドユーザーが存在し、エンドユーザーの「これ、大丈夫かな」という不安をなくし、要求品質を完全に満たした状態でなければその製品を上市することはできないのです。
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