不正行為が起きた背景として、各社とも認識不足や環境の不備を挙げた。
ヤマハ発動機は騒音試験の不適切な条件によるコンディショニングについて「技術的にグラスウール製吸音材の飛散への影響がなければ法令上も問題ないという誤った法令の理解をしていた」「認証試験において、試験結果への影響だけでなく、試験プロセスも含めた順法性が重要であることの認識が不足していた」「試験プロセスの順法性を担保するための方法や、プロセスの責任の所在に不明確な部分があったため、適切な確認が行われず、試験実施部門の誤った判断を発見できていなかった」と説明。
また、ヤマハ発動機は警音器の音圧試験で試験を実施した車両以外の車台番号を申請書類に記載した件についても「認証申請にかかわる法令やルールについて、社内展開が正確にできていなかった。その結果、申請方法のルールについて十分に理解しないまま誤った申請を行っていた」と発表した。
スズキの不正行為は、社内認証試験においてブレーキの踏力が規定値を大きく下回る弱い力だったため、停止距離が法規要件に対して余裕がない結果だったことがきっかけだった。試験成績書の提出期限までに再試験を行う時間がなく、試験に関与した者が「ブレーキを規定値近くまで踏み込んだ場合を想定した停止距離に書き換えても問題ない」と考え、意図的に書き換えたという。
マツダは過去生産車3車種について、衝突試験における試験車両の不正加工を行っていた。前面衝突時の乗員保護に対する認証試験において、エアバッグを車載センサーの衝突検知による自然起爆にすべきところ、外部装置を用いて時間指定で起爆させた試験実績があった。また、現行生産車2車種については、ガソリンエンジンの原動機車載出力に対する認証試験において、量産車両と同一状態のエンジン制御ソフトにより出力試験を行うべきところ、点火時期補正機能の一部を停止させた制御ソフトによる試験実績が発覚した。
これらの原因について、マツダは試験が認証法規に準拠した状態で実施されたことをチェックする仕組みやガバナンス体制の整備が不足していたと述べている。認証法規に準拠した試験を実施するための手順の不備や、安定的に試験条件を満たす設備の整備不足も挙げた。
ホンダは、騒音試験における車両の重量について、試験実施後に設計変更などで車両重量が変化すると再試験が発生する可能性があるとし、車両重量を法規より厳しい条件に設定して試験を行うことで、騒音性能は保証できると解釈。規定範囲を超えた重量で試験を実施したり、試験車両とは異なる規定範囲内の重量を試験成績書に記載したりした。これにより、再試験の工数を増やさずにすむと考えたという。
また、原動機車載出力試験や電動機最高出力/定格出力試験では、試験結果の出力値やトルク値を書き換えて試験成績書に記載した。これは、試験結果が同一諸元の原動機や電動機を搭載する機種の諸元値に未達または過達の場合、追加の解析が発生する可能性があるが、諸元値に対する差がわずかだった場合には性能のばらつきの範囲内であると考え、既に認証を取得している機種の諸元値に書き換えることで追加解析の発生を回避し、工数を増やさずにすむと判断したことが要因だとしている。
別の原動機車載出力試験では、法規では発電機を作動させた状態で試験を行うべきところを作動させずに実施。別の同一原動機試験で得られた補正値を用いて数値を算出し、発電機を作動させた状態と同等の試験結果とみなした。これは、発電機を作動させた状態での測定が試験条件であることが試験マニュアルに規定されておらず、補正値を用いて算出した数値が定められた条件での試験結果と同等であるとみなし、工数を増やさずにすむと考えたことが背景にあるとしている。
トヨタ自動車 カスタマーファースト推進部 本部長の宮本眞志氏は「安心安全ないいクルマを作りたいという思いで、より厳しい条件でクルマを開発しており、その中で何十、何百と厳しい試験をしている。その自負でやってきたが、その思いが行き過ぎて認証のプロセスに対する意識が足りていなかった。調査中だが、車種の多さや忙しさなども背景にある。台数規模を理由にはできないが、台数が増えてくると車種や仕様の種類が増える。現場の意見を聞き、課題を1件1件深掘りしながら対策を1つずつ打っていきたい」と述べた。
トヨタ自動車 会長の豊田章男氏は企画から生産準備に至るまで認証にかかわる全てのプロセスは年単位のリードタイムであることに言及。不正行為が見過ごされた背景に全体像の把握の難しさがあると説明した。「認証業務の全体像はトヨタ自動車だけでなくどの会社も把握できていないのではないか。認証は、関わる人員の多さに加えて、あいまいで個人の技能に頼る部分が非常に多く、かといってルールは整備されていない。担当者の解釈によってやり方が違ってくる場合もある。あいまいなまま短期間に何度もやり直すことにもなり、負担をかけてしまったのではないか」(豊田氏)と述べた。
再発防止策として現在、認証項目に関して各工程が行うべき作業を標準化したり、保証すべき品質基準を整理したりしているという。情報の流れを可視化し、認証のあいまいで属人的な作業を標準化する。2024年内には標準化をさらに進め、基準から外れた異常が発生した工程と状況を把握できる体制が整う予定だとしている。
車両のさまざまな仕様がある中で、全て試作車で安全面や環境面を試験することは「現実的には不可能」だと豊田氏は述べた。同氏は「ユーザー向けの安心安全は担保されているが、“厳しい試験をやったからいいよね”と現場で判断してしまった」ともコメントし、代表的な仕様にどのような試験を行うべきか当局と交渉しながら決めていきたいと語った。
「認証に関してやってはいけないことをやってしまった。そこはしっかり正していきたい。今回学んだことは、自工会(日本自動車工業会)などを通じて、国にもかかわってもらいながら、安心安全に乗れるクルマのルールを作るきっかけにさせていただきたい。何がユーザーのために、日本の自動車の競争力向上のためになるかという議論になっていってほしい」(豊田氏)
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