Simulation Governanceの体制カテゴリー「組織的対応」と「組織活性化」の診断結果シミュレーションを制する極意 〜Simulation Governanceの集大成〜(11)(1/3 ページ)

連載「シミュレーションを制する極意 〜Simulation Governanceの集大成〜」では、この10年本来の効果を発揮できないまま停滞し続けるCAE活用現場の本質的な改革を目指し、「Simulation Governance」のコンセプトや重要性について説く。引き続き、各サブカテゴリーの項目のポイントやレベルの意味を解説しながら、詳細な診断データを眺めていく。連載第11回では、体制カテゴリーの「組織的対応」と「組織活性化」にフォーカスする。

» 2024年05月15日 08時00分 公開
[工藤啓治MONOist]

 シミュレーション・コンサルタントの工藤啓治です。さて、今回はいよいよ、詳細分析の最後の回「体制」のカテゴリーについて見ていきます。

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体制カテゴリーの診断結果

 体制は、前回の「文化」と対になって支援部隊として重要な役割を果たさなければなりません。文化が見えない空気のようなものだとすれば、体制は土台として目に見えて存在するものとなりますので、その現状も判断しやすく、対策が取りやすいといえます。体制が改善〜改革されればそれはすぐに分かるので、社員のモチベーションに影響し、労働生産性が上がり、成果が見えてきます。ですので、体制面に手を入れると、その効果の良しあしは1年で分かります。例によって、表1図1体制についての診断結果を示します。

「体制」の診断結果平均、標準偏差、最大 表1 「体制」の診断結果平均、標準偏差、最大[クリックで拡大]
「体制」の診断結果ヒストグラム 図1 「体制」の診断結果ヒストグラム[クリックで拡大]

体制カテゴリーの「組織的対応」に着目

 それでは「組織的対応」サブカテゴリーに属する5つの項目から見ていきましょう。

D1「利用/応用支援体制」

 D1「利用/応用支援体制」の設問は、“CAEソフトの利用や応用支援体制は十分ですか?”というものです。Level 2の“質問には対応してくれるが、それ以上でも以下でもない”の回答が最多ですので、支援体制の基本の“キ”が不十分であることが推察でき、根が深い課題であることが分かります。実際に「専任部署がない」「専任者がいない」というコメントも多く見られ、外部ベンダーのサポートを積極的に活用しているケースと、それができていないケースとでバラツキがあります。

D2「新領域分野開発体制」

 D2「新領域分野開発体制」の設問は、“新領域に対応する場合の体制は十分ですか?”です。全体の項目の中でも珍しいことに、Level 1〜4までほぼ均等に近いバラツキが見られます。このことから、企業によって状況がかなり異なることが分かり、開発力の差に影響している可能性があると考えられます。コメントとしては、「限られたリソースで対応している」「有志が自主的に手を挙げている」「優秀な技術者に集中するので配分が大変」「外部ベンダーを積極的に活用している」などが挙げられていました。

D3「教育〜人材育成」

 D3「教育〜人材育成」の設問は、“シミュレーションに関する教育と人材育成の体制は十分ですか?”です。ヒストグラムのパターンはD1と似ていて、Level 2の“一部の分野あるいは部署で、教育/育成を行っている”という状況が大半を占めています。コメントを見てみると、基本教育は比較的実施されている様子ですが、「分野が限られる」「OJT任せ」「外部ベンダーのセミナーを活用している」といった状況や、育成計画にまで至っていない現状もあるようです。

D4「認定資格や外部講習活用」

 D4「認定資格や外部講習活用」の設問は、“計算技術者認定資格や学会などの外部講習を十分に活用していますか?”です。こちらもD1、D3のようにLevel 2の“個人で活用し、認定を受けたり、受講したりしているケースがある”が最も多い状況です。一部企業では「認定者に報酬がある」や「充実している」といった例外的な回答もありましたが、大半の企業で、組織的な理解も対応も足りていないということを示しています。技術者のモチベーションを上げるだけでなく、実際に技術力の向上にもつながるので、もっと積極的に組織として活用すべきテーマだと考えます。

D5「ローテーション」

 D5「ローテーション」の設問は、“経験を深めるための対策として、CAE担当者を設計部署で経験させるなど(その逆や他の部署など)のローテーションを、組織的に行っていますか?”です。この設問は、筆者がこれまで見てきたお客さまの組織事情の観察に基づいて作成したものです。診断結果としては、Level 4〜5はなく、Level 3の“適用できる部署は限られるが、実施している”以下でまとまっており、実感に近い状況だといえます。

 ローテーションの有無によって、設計や実験を理解した上でのCAE技術の深みや、ミッションに対する責任感が違ってくるため、CAEの活用効果の観点では非常に重要なファクターといえます。ただ、実際には、単一製品を開発している企業と、多様な製品種類を複数の事業部で開発している企業とでは、社内リソースの配分の仕方が違うはずなので、ローテーションが実施しやすい環境であるかどうかも勘案する必要があります。

 昨今では、ホールディングズ制組織が増えていますので、ローテーションの仕方をうまく考えることは、共通技術を複数の事業体で共有し、流通させるためにも重要だといえるでしょう。

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