製造DXの4つの成功要因(後編):変革は柔軟に、草の根活動から始めよ!結果を出す製造DX〜人を育ててモノの流れを改革する〜(4)(1/2 ページ)

モノづくりDXの重要性が叫ばれて久しいが、満足いく結果を出せた企業は多くない。本連載ではモノの流れに着目し、「現場力を高めるDX」実現に必要なプロセスを解説していく。第4回はDX推進時の「4つの成功要因」のうち、「柔軟なDX」と「草の根DX」について説明する。

» 2024年04月25日 07時00分 公開

 前回の「製造DX4つの成功要因(前編)」では、DX(デジタルトランスフォーメーション)推進のワナを避けるための下記(1)(2)について紹介した。後編では、製造業の事業/組織特性を踏まえた(3)(4)のポイントについて説明する。

  • ワナを避けるために
    • 成功要因(1):悩みから始めるDX
    • 成功要因(2):人間業を超えるDX
  • 製造業の特性を生かすには
    • 成功要因(3):柔軟なDX
    • 成功要因(4):草の根DX

成功要因(3):柔軟なDX

 昨今、製造業の事業継続を特に脅かす要因として浮上しているのが、「人材不足」と「VUCA(Volatility、Uncertainty、Complexity、Ambiguity)」の2つだ。

 人材不足については説明不要だろうが、ここでは3つの要素に分解して説明する。1つ目が、少子化を背景とした単純な労働力不足だ。既にサービス業や建設業では、労働力の不足を理由に事業継続を断念する「人手不足倒産」が増加傾向にあり、この問題は中小製造業にも波及しつつある。

 2つ目は、特定の専門技能を持つ人材の不足だ。製造現場では高度な職人芸が求められる場面も多く、特定のスキルを持つ人に仕事が集中しがちだ。この特定スキルを持つ人材が退職/引退する際の技能流出やノウハウ断絶のリスクは、就業者の高齢化に伴い増大し、深刻化しつつある。若手を採用できず、技能伝承の受け皿がないというケースも少なくない。

 そして3つ目の、デジタル人材の不足が追い打ちを掛ける。デジタル化による生産性向上に取り組みたくても、推進できる人材がいないのだ。これらの3つの要素が絡まり合って、人材不足はもはや、事業継続を脅かす大きな課題になっている。

 また、VUCAの加速により、製品の安定供給が脅かされている。製品ライフサイクルの短縮化や多品種少量生産の増加、予期せぬサプライチェーンの断絶など、事業環境の変化は激しさを増す一方だからだ。例えば製品ライフサイクル短縮化の影響で、「かつては製造ラインを7年間運用できたが、現在は5年で更新が必要だ」といった声や、「製品を作り込むと開発費の回収が困難になる」「後から製造ラインを改善しても挽回が難しい」という意見をよく耳にする。

 「需要予測が限界にきている」という声も多く聞く。「参考にできるのは月次トレンドなどの中長期的な予測だけ」「週次、日次などの短期的な予測は信頼性が低い。現地現物の確認作業に頼るしかない」といった次第だ。VUCAの時代では、変化に迅速に対応できる力がなければ生き残りが難しくなっている。

事業継続のカギは「人材不足」と「VUCA」の課題の解決 事業継続のカギは「人材不足」と「VUCA」の課題の解決[クリックして拡大] 出所:スマートショッピング

2つの課題を同時解決する「柔軟なDX」とは

 この「人材不足」と「VUCA」の2つの課題を同時に解決するのが、「柔軟なDX」というアイデアだ。人間の手作業か機械による自動化という択一を迫る、従来の「職人芸vs自動化」という常識を捨てて、「いかにオペレーションを簡単にするか」という発想で取り組むことが重要になる。

職人芸を自動化するためにはオペレーションの簡素化が重要になる 職人芸を自動化するためにはオペレーションの簡素化が重要になる[クリックして拡大] 出所:スマートショッピング

 専門技能を持つ人材の不足は、「職人芸」を自動化できれば既に解消しているはずだ。できていないのは、「職人芸」の内容が複雑であり、単純に機械に置き換えることが困難であるからに他ならない。

 では「職人芸」で維持されている業務を自動化することはできないのか。そうではない。しかし、自動化を実現するにはまず既存のオペレーションを見直し、単純化する必要がある。この単純化の過程では、「新たなデータ」や、「データから導けるルール」が大きな役割を果たす。

 ある大手の自動車工場では、「昔は工場全体を見渡すだけでかんばん枚数を増減できる(生産調整を行う)神様がいた。今はそのような人材はいない」といった話を聞いた。また、「製造ライン立ち上げ時の設定が現状では適切でないと知りつつも、変更に伴うリスクを恐れて2年間変更できずにいる」との意見もあった。こうした課題に対しては、例えば、実在庫の履歴データを活用して簡単にラインの調整を行えるような仕組みを構築することが考えられる。

 また、「既存の仕組みにレトロフィット(後付け)して、現場が容易に使いこなせる」というアプローチも求められている。ユーザーが、「レジリエンス(回復力、復元力)は維持したまま自動化したい。環境が変化したり、改善が必要になったりした場合に、小回りが利かないと困る」と考えているからだ。

 さらに、需要予測困難な領域でも、状況に合わせて素早く軌道修正できるようサポートするサービスも生まれている。リアルタイムデータを活用して人間の能力を超えた速さで変化に対応できるIoT(モノのインターネット)サービスや、人間では不可能な頻度で軌道修正を繰り返して計画の最適化を実現するAI(人工知能)サービスなどだ。いずれもオペレーションを簡単にし、柔軟なDXを実現している。

       1|2 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.