モノづくりDXの重要性が叫ばれて久しいが、満足いく結果を出せた企業は多くない。本連載ではモノの流れに着目し、「現場力を高めるDX」実現に必要なプロセスを解説していく。第3回はDX推進時の「4つの成功要因」について説明する。
前回はDX(デジタルトランスフォーメーション)推進における3つのワナを話した。今回から2回に分けて「DXにおける4つの成功要因」をお話したい。
下記の(1)(2)はDX推進のワナを避けるためのポイント、(3)(4)は製造業の事業や組織特性を踏まえたポイントである。今回は、前半に当たる(1)(2)の成功要因を説明する。
DX推進のワナにハマるのは、端的に言うと、技術に溺れて「目的なきDX」に陥るからだ。とはいえ、では「目的を考える」ためにコンサルタントに依頼して、壮大なDX戦略を描けば良いのか、というとそれは筋の違う話だろう。すでに多くの会社は固有の事業戦略を持っているはずだ。問題はそれをいかに推進するかということで、悩みの核はその点にある。
その悩みを解決する手段として、デジタルという新しい選択肢が増えただけのことなのだ。ここはシンプルに「悩みから始め」「どの悩みをデジタルで解決できるか」に集中して検討するほうが、成功を収めやすい。
当社が顧客と話すと、一般的に製造業の経営レベルでは上記の悩みが多い(個社特有の悩みは除く)。まず事業継続がMust Have(必須)で、その上にカイゼンPDCAや価値創造というNice To Have(あると良い)が乗っかる。
事業継続の典型的な悩みは、特定技能での人手不足だ。職人芸でギリギリ成り立つ業務で担当者の引退や産休が控えており対策に苦慮している、といった状況は多くの会社で聞かれる悩みだ。
また、製品サイクル短期化、多品種小ロット化、サプライチェーンのBCPなど、世の不確実性は増す一方で、安定供給の顧客要求レベルは変わらない。この不確実性へのドタバタ対応が限界近いことも、事業継続を脅かしている。これら2つの悩みを、デジタルで解決できないかを考えると、自然と目的ありきのDXとなる。
さらに取り組む順番も大事である。社内の事業継続や改善から始め、社外向けの価値創造にも取り組むべきだ。例えば、EBILAB(飲食経営+店舗DX)、i Smart Technologies(自動車部品+製造DX)など、DXで大成功を収めた企業は、自社でデジタルを使い込んでから、そのDXノウハウを外販するケースが多い。逆に、社内でデジタル活用していない企業が、一足飛びにデジタルで新規事業に挑戦してもがく姿もよく見る。慣れないデジタル領域で、ただでさえ難しい新規事業に取り組むためである。
おまけに顧客も、デジタル活用のイメージがない企業から、デジタル商材を買おうとは思わない。DXは、社内で徹底活用してから社外に展開すべき、と肝に命じたい。
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