IVIは「IVI公開シンポジウム2024-Spring-」を開催。本稿では、IVI フェローでブラザー工業 品質・製造センター 製造企画部 グループマネージャーの西村栄昭氏による工場でのカーボンニュートラル1次情報の取得実証を紹介した「ここまで出来た!! ブラザーにおけるCN(カーボンニュートラル)1次データ取得」の内容をお伝えする。
「つながる工場」実現に向け、製造業、製造機械メーカー、ITベンダーなどが参加するIndustrial Value Chain Initiative(IVI)は2024年3月14日、「IVI公開シンポジウム2024-Spring-」を開催した。本稿では、IVI フェローでブラザー工業 品質・製造センター 製造企画部 グループマネージャーの西村栄昭氏と、同社 鷲津友香氏による工場でのカーボンニュートラル1次情報の取得実証を紹介した「ここまで出来た!! ブラザーにおけるCN(カーボンニュートラル)1次データ取得」の内容をお伝えする。
国際的にカーボンフットプリント情報を取引条件にする動きが強まる中、製造現場からの一次情報の取得にも注目が集まっている。こうした動きに合わせ、IVIでは企業間のデータ共有を行いやすくするフレームワーク「Connected Industries Open Framework(CIOF)」を活用し、カーボンフットプリント情報の企業間情報連携を行う「カーボンチェーントラステッドネットワーク」を発表し2024年3月14日にそのホワイトペーパーを公開している。
さらに、「カーボンニュートラル実践10万円キット」を2023年10月からIVI内でサンプル提供開始している。これは、とにかく簡単に電力計測を行えるようにしたキットで、小型ボードコンピュータ「Raspberry Pi(ラズパイ)」と電力センサー基板、電力計測用クランプなどで構成されており、中小製造業でも簡単に電力計測が行えるという点が特徴だ。
この「カーボンニュートラル実践10万円キット」を活用し、カーボンフットプリントの1次データ取得の実証に取り組んだのがブラザー工業だ。ブラザー工業では、事業所ごとにCO2排出量削減と資源循環に向け、省エネや創エネ活動に取り組んでいるが、現在は基板や外装樹脂など部品のCO2排出量算定方式に2次データ(業界標準による外部データ)を使用しており、実態に即した値は取得していないという。そこで、このIVIのキットを用いて作成した計測器を電線にクランプして電力値を計測。その1次データである電力値から電力量に変換し、CO2排出量を算定する実証を行った。西村氏は「ブラザー工業でのモノづくりにおけるカーボンフットプリントを見ると、基板製造や樹脂製造の2分野の割合が大きく、この辺りにメスを入れるためにIVIのキットを活用した」と述べている。
実際に1次データの収集を進めてきたところ「実際に測定したからこそ分かったことも多くあった」と取り組みを進めた鷲津氏は述べる。例えば、稼働直後が最も電力を消費しているという点や、稼働後に材料を変えるなどヒーターでの温度上昇が必要な作業が入ると電力も上昇し、設定温度に達して保温状態の電力は安定および下降するという点などが、明確にデータとして把握できたという。
さらに、これらで得られた1次データを基にしたCO2排出量を、現行の算定方式と比較したところ、部品1つ当たりの電力由来のCO2排出量が85%以上低いということが明らかになったという。「排出係数が実際の製造工程での数値よりもかなり大きな数値になっていた。実測値を基にすることで、より現実に近い係数を設定でき、従来値よりも実際のCO2排出量は大幅に低い値であることが分かった。あらためて実測値による1次データを活用する価値があるということを認識した」と鷲津氏は語る。
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