デジタルツインを実現するCAEの真価

Simulation Governanceの活用カテゴリー「管理の仕組み」の診断結果シミュレーションを制する極意 〜Simulation Governanceの集大成〜(9)(3/4 ページ)

» 2024年03月27日 09時00分 公開
[工藤啓治MONOist]

C12「要求管理とシミュレーション連携」

 次のC12要求管理とシミュレーション連携」は、SPDMのテンプレート化されたタスクが、PLM機能の一つである要求管理と連携されている仕組みのことを示していますので、一気にハードルが上がります。

 “設計の要求性能データとシミュレーション結果の比較検討をどのように行っていますか?”との設問に対し、95%が、Level 1:“要求管理とシミュレーションには全くつながりがない”、もしくは、Level 2:“計算シートなどの要求性能とシミュレーション結果をマニュアルで突き合わせている”と回答しています。残念ながら、理想であるLevel 5:“最新の要求性能データにひも付けて、シミュレーションを実行でき、結果も自動的に反映される”状況とは大きく懸け離れています。

 実際のところ、SPDMをデータ管理系とプロセス管理系の両方で活用していることを前提に、かつ要求管理も行うということなので、日本の実情から申し上げれば、まだまだ無理があることは事実です。欧米でもまだそれほど多くないでしょう。ですが、製造業において、設計業務の中に組み込んだ形でシミュレーションをしっかりと使うという意味で、あるいはシミュレーションを活用したDX(デジタルトランスフォーメーション)という見方をすれば、あるべき像といってもよい理想のソリューション系なのです。どのような業界においても、シミュレーションを活用する以上は、製品の仕様や制約といった要求要件とつながっているべきですから、汎用(はんよう)的な目指す姿に違いないのです。

 図5は、ダッソー・システムズの3DEXPERIENCEプラットフォームに実装された、SPDM、要求管理とプロジェクト管理がつながった“要求性能に基づくV+R試験と検証の仕組み”となります。

要求性能に基づくV+R試験と検証の仕組み 図5 要求性能に基づくV+R試験と検証の仕組み[クリックで拡大] 出所:ダッソー・システムズ

 こうした仕組みにより、仕事の品質が上がり、やり方が変わり、持続的な成果が期待できるということを、以下にまとめてみました。

  • 仕事の品質が変わる ⇒ リアルタイムの効率的デザインレビュー
    • 要求と性能予測結果と検証結果を抜け漏れなくタイムリーに誰でも確認
    • 重要な性能項目に一目で絞り込んで効率良く検討
    • 要求変更影響を把握し、迅速に対応
  • 仕事のやり方が変わる ⇒ 設計プロセス改革
    • CAEと実験業務の目的、予定、担当者、状況の全体把握
    • テンプレート化されたタスクを、スキルと優先度にフィットする担当者にアサイン
    • 変更情報がリアルタイムで反映されるので即座に対応
  • 仕事の成果を応用できる ⇒ 持続的技術育成
    • プロジェクトのテンプレートを次機種、他地域に応用
    • 仕事が標準化され、可視化されることで、人材育成を促進
    • 全ての情報が一元化され、地域や国による壁がゼロに

C13「プラットフォーム活用」

 最後のC13プラットフォーム活用」の設問は、“設計情報をつなぐプラットフォームを利用していますか?”であり、C10〜12がある程度実現できていれば、それなりにプラットフォームを活用していることになります。C12ほど、特化した使い方ではなく一般的な設問になっていますので、Level 3、4、5にも少し分布している状況を見ることができます。少なくとも、DXを標榜するプロジェクトにおいては、デジタル連携が大前提となる以上、=(イコール)プラットフォームを活用するということになります。

 Amazon.comや楽天市場などのEC(Electric Commerce:電子取引)、XやFacebook、InstagramといったSNS(Social Networking Service)など、スマートフォンを通じ、私たちは意識せずして日常的にプラットフォームを使っているわけですから、これはもう好みや優先の問題ではなく、MUSTの技術となります。設計の世界も、シミュレーションの世界も同様で、プラットフォームを活用できない企業は、出遅れるどころか、淘汰(とうた)されるといっても過言ではないでしょう。

プラットフォーム活用の前と後の違い 表2 プラットフォーム活用の前と後の違い[クリックで拡大]

 前職のダッソー・システムズのお客さまである武蔵精密工業の事例情報によれば、代表取締役社長の大塚浩史氏自らが、「プラットフォームというのは、それなくしては競争力にものすごく差が出てしまうので、当社にとって3DEXPERIENCEプラットフォームは必須アイテムです。世界できちっと戦って勝ち抜いていけるような会社を目指していくには、そういった必須アイテムをどれだけ使いこなせるかという、そういう観点が必要だと思います」と述べてきます。

 欧米では、社長/CEOがこうしたメッセージを出すことは珍しくありませんが、日本のトップが明確にこのようにプラットフォームの必要性に言及する例はまれといえるでしょう。本来、まれであってはいけないのですが、日本は、近年デジタル化の遅れ、労働生産性の低さを指摘されてきました。2017年に日本が世界デジタル競争力ランキングで27位になったときは大きなニュースになりましたが、その後少し盛り返したものの、2023年のデータによれば、日本の総合ランキングは32位と過去最低とのことです。もはやニュースにもならないほど、驚きではなくなってしまいました。

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