東北大学は、単一分子のみを用いて、異なる誘電応答性を示す結晶を作成することに成功した。省プロセスかつ省コストで、物性を制御可能な誘電材料の開発につながることが期待される。
東北大学は2024年2月27日、大阪大学との共同研究により、単一分子のみを用いて、異なる誘電応答性を示す結晶を作成することに成功したと発表した。
同研究では、お椀形状を持つ有機分子が平面状の遷移状態を経て、ひっくり返った構造に変換する「ボウル反転運動」を利用した。
研究グループは、お椀状分子のスマネンにフッ素原子を1つ導入したモノフルオロスマネン(FS)を合成した。固体中のスマネンはお椀が一方向に向いて並ぶ一次元積層構造で、異方的な電気伝導性や熱電特性を示す。一方、溶液中では、ボウル反転運動により、双極子モーメントの向きや大きさが異なる反転前後の分子FSendoとFSexoが混在する平衡混合物となる。
単結晶X線構造解析の結果、FSを結晶化する際の溶媒によって、結晶中のFSendoとFSexoの割合が異なることが分かった。具体的には、DMF(ジメチルホルムアミド)を結晶化溶媒として使用するとFSendoの割合が多い結晶となり、ジクロロメタンの場合はFSexoが若干多い結晶となる。
量子化学計算や分子動力学シミュレーションを用いて解析したところ、FSendoとFSexoの分子構造の違いや、溶媒和による安定化度合いの違いにより、この現象が起こることが分かった。
得られた2つの結晶の誘電スペクトルを測定すると、DMFを用いた結晶はDebye(デバイ)型応答であるのに対し、ジクロロメタンを用いた結晶は誘電率が非常に大きいことが確認された。
同研究により、結晶化溶媒を調整して、単一分子のお椀型化合物からさまざまな物性の結晶を作成できる可能性が示された。今後、少ないプロセスやコストで物性を制御できる誘電材料の開発につながることが期待される。
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