生分解性は、従来のプラスチックにはまれな性質であるため、代替材料としての付加価値になり得ます。ただし、生分解性の有無は、その高分子を分解(資化)できる生物が存在するかどうかにかかっています。実際に、どんな環境でも分解されるとは限らず、ある場合にはたい肥を作るコンポストなどを用いた特殊な条件で初めて分解されるものもあります。
このような構造上の制約から、生分解性プラスチックは機能面で劣る傾向にあります。また、自然環境で分解することは、同時に耐久性が低くなることを意味するため、分解性と長期安定性について、常にトレードオフの関係があります。
このように、バイオプラスチックにはまだまだ課題が山積みです。新しい設計指針に基づいたポリマーの開発は、これらの解決の一助になると期待されます。現在上市されている生分解性プラスチックの内訳を見てみると、その約6割をポリエステルが占めており、残りのほとんどは、糖質由来のものです。このことから、生分解性プラスチックの主流がポリエステルであることが分かります。そして意外にも、ナイロンがこの中に含まれていないことも理解できます。
ナイロンとは、アミド結合と呼ばれる化学結合で連結した高分子のことで、ポリアミド(PA)とも呼ばれます。強度が高く、吸湿性に優れているため合成繊維として多用されています。PAは、分子構造において、アミド結合の間にある炭素の数によって呼び名が定義されます。例えば、PA6は、アミド結合の間に炭素が6個あることを意味しています。
PA6の他、PA66、PA12などが市販品として使われています。現在のところ、化石資源に由来しているものが主流ですが、バイオマス化は盛んに取り組まれています。今後さまざまなバイオポリアミドが製品化されていくものと期待されています。ただし、ここに挙げた市販のポリアミドは、どれも生分解性を示しません。
ほとんどのポリアミドが生分解性を示さない中で、高い生分解性を示すものもあります。それが、PA4です。PA4は、土壌中での生分解性は古くから知られていましたが、その他にもコンポスト、海洋、生体内など多様な環境下でも分解されることが分かっています。
そして、生物生産物であるグルタミン酸からPA4の原料が合成できることが良く知られています。このように、PA4はバイオプラスチックという観点からは非常に魅力的ですが、その一方で成形加工がしにくい、硬いが脆い、など機能面に問題があるため、実用化には至っていません。PA4をうまく使いこなして、役に立つ材料にすることは、バイオプラスチック開発における重要な課題となっています。(次回へ続く)
産業技術総合研究所 官能基変換チーム 主任研究員 田中慎二(たなか しんじ)
博士(理学)。2021年まで名古屋大学にて助教として勤務。2021年より現職。専門は、有機合成化学。特に、触媒を用いた物質変換技術、キラル物質合成技術の開発を中心に行っている。近年は、バイオプラスチックの開発も推進している。2017年有機合成化学奨励賞。
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