製品を正しく組み立てやすくするためには、設計者と製造技術者が話し合い、量産前に設計で対応するか、製造技術で対応するかを決める必要がある。日本は製造技術が優れているため、製造性の多くを製造技術が担ってきた。言い方を変えると、設計であまり多くの配慮をしなくても、組立メーカーが正しく組み立ててくれたといえる。しかし、中国の組立メーカーで製品を組み立てると、中国の組立メーカーには日本のような優れた製造技術がないため、日本と同じレベルまでバラツキを小さくすることができない。中国人の国民性や、作業者が頻繁に入れ替わる環境などに原因があるのだ。
このように、中国の組立メーカーの製造技術が低いことと、日本の設計者の製造性への配慮が足りない設計とが合わさった結果として、「Made in China」には不良品が多いのである。中国の部品メーカーが作ったバラツキの大きい部品で、中国の組立メーカーが大きなバラツキで製品を組み立てるのだ。そのことを知っている中国人は、日本の部品メーカーが作った部品で、日本の組立メーカーがバラツキなく組み立てた製品が欲しいため、日本で爆買いをするのだ。
しかし、近年は爆買いが減少している。中国の部品メーカーと組立メーカーが、最新の工作機械やカメラなどを使ったIoT機器をどんどん導入し、製造性のレベルを上げているからだ。「Made in Japan」神話がなくなりつつある。
以下、設計で配慮できる製造性に関して、主な内容を挙げる。
既成品の線材ホルダーなどは、同じメーカーの製品であれば取り付け穴が同じ形状をしている。よって、サイズ違いの線材ホルダーでも取り付いてしまう場合があるのだ。意図的に取り付け穴の形状の異なる部品を選択する。
前述の図2の板金部品のことである。正しくない方向で部品が取り付かないように設計で配慮する。
部品の取り付け時に、部品ががたつくことなく決まった位置で固定されるように設計で配慮する。
作業者の両手とその力で組み立てられるようにする。できない場合は、治具が必要になる。つまり、組立メーカーの製造技術に任せることになる。
奥まった箇所にビスがあり、極端に長いドライバーが必要な設計や、とても狭い箇所にビスがあり、極端に短いドライバーが必要な設計をしてはならない。設計上、仕方なければ組み立て順を工夫したり、特殊工具を準備したりなど製造技術で対応する。このような設計は販売後の修理においても問題となるので注意したい。
部品をハンドリングするときに、作業者にケガをさせるような形状であってはならない。バリ範囲の長い板金部品やとがった箇所のある部品は、作業者がケガをしやすい。また、1回の作業では問題ないが、同じ作業を数百回と繰り返すことによって、腱鞘炎になったり、指の爪が割れたりするような作業であってはならない。線材コネクターの挿入に、極端に大きな指の力が必要であれば、この繰り返し作業で爪が割れることもある。挿入しやすい線材コネクターを選択すべきだ。 (次回へ続く)
オリジナル製品化/中国モノづくり支援
ロジカル・エンジニアリング 代表
小田淳(おだ あつし)
上智大学 機械工学科卒業。ソニーに29年間在籍し、モニターやプロジェクターの製品化設計を行う。最後は中国に駐在し、現地で部品と製品の製造を行う。「材料費が高くて売っても損する」「ユーザーに届いた製品が壊れていた」などのように、試作品はできたが販売できる製品ができないベンチャー企業が多くある。また、製品化はできたが、社内に設計・品質システムがなく、効率よく製品化できない企業もある。一方で、モノづくりの一流企業であっても、中国などの海外ではトラブルや不良品を多く発生させている現状がある。その原因は、中国人の国民性による仕事の仕方を理解せず、「あうんの呼吸」に頼った日本独特の仕事の仕方をそのまま中国に持ち込んでしまっているからである。日本の貿易輸出の85%を担う日本の製造業が世界のトップランナーであり続けるためには、これらのような現状を改善し世界で一目置かれる優れたエンジニアが必要であると考え、研修やコンサルティング、講演、執筆活動を行う。
◆ロジカル・エンジニアリング Webサイト ⇒ https://roji.global/
◆著書
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