Canon Virginiaは、新製品や技術の展示を行うキヤノンのプライベートイベント「Canon EXPO 2023」で、展開するシルク事業について紹介した。
Canon Virginia(以下、キヤノンバージニア)は、新製品や技術の展示を行うキヤノンのプライベートイベント「Canon EXPO 2023」(2023年10月17日:東京国際フォーラム、同月18〜20日:パシフィコ横浜ノース)で、展開するシルク事業について紹介した。
同社は、1985年に設立されたキヤノンの米国製造会社で、トナーカートリッジ、複写機トナー、金型の製造やサービスサポート(カメラ修理、事務機修理・再生など)を行っている。昨今は製品に必要なシルク由来のフィブロイン水溶液とフォームの製造/販売などを扱うシルク事業に注力している。
シルクはフィブロインとセリシンという2種類のタンパク質から成り、フィブロインは食品にコーティングすることで酸素と水分の侵入を防ぎ賞味期限を延ばせる他、ワクチンや血液の長期常温保存も実現する。
このため、現在、米国では食品や医薬品を対象にシルク由来のフィブロインを用いた保存技術の活用が盛んに行われている。一例を挙げると、米国マサチューセッツ州に本社を構えるmoriではシルクフィブロインベースの食品保存剤を開発/販売している。シルクフィブロインベースの食品保存剤は無味無臭で人体にも無害で食品の保存性に優れ、既に流通しているホウレンソウの保存剤として採用されている。
moriを含む多くの企業がシルクフィブロインを用いた製品を開発する際に、相談するのがタフツ大学 教授でシルクの応用研究における世界的権威であるFiorenzo G Omenetto(フィオレンツォ ジー オメネット)氏だ。オメネット氏はシルクフィブロインを用いた多数の保存技術を開発し、特許を取得しており、多くの企業がその特許技術の利用を目的としたライセンス契約を結ぶためにオメネット氏の下に足を運ぶ。moriもオメネット氏が開発したシルクフィブロインの特許技術を活用してシルクフィブロインベースの食品保存剤を開発している。
キヤノンバージニアではオメネット氏とパートナー契約を結び、同氏が開発したシルクフィブロインの特許技術を利用する企業の紹介を受けており、オメネット氏の紹介により同社のシルク事業で最初の顧客となったのはmoriだ。キヤノンバージニアはmoriの食品保存剤向けのフィブロイン水溶液の量産体制を2021年8月に確立し、供給を続けている。
キヤノンバージニアの説明員は「シルクからフィブロインのみを抽出し水溶液とする技術はラボレベルでは存在していたが、量産向けの技術がなかったため、キヤノン本社とともに量産技術を開発した」と話す。現状はフィブロイン水溶液でmoriに供給しているが、2024年以降は量産化体制を確立した粉状のフィブロインパウダーで供給する。「フィブロイン水溶液よりフィブロインパウダーの方がコンパクトなため、一度に多くの量を運搬できる」(説明員)。さらに、少量のフィブロイン水溶液を同社から購入し製品の研究/開発を行っている企業もある。
また、キヤノンバージニアでは、シルクフィブロインの供給だけでなく、製品の研究/開発も行っている。既にシルクフィブロイン100%のモールド部品を開発した。シルクフィブロイン100%のモールド部品は、生分解とリサイクルに対応する他、石油由来の材料を使わずにさまざまな色のものを生産できる。
説明員は「象牙など高級感がある天然素材はワシントン条約で輸入できないためアクセサリーに使いにくい。しかし、高級なイメージがあるシルク由来のフィブロイン100%のモールド部品は天然素材でワシントン条約にも抵触しないため、アクセサリーなどに使用しやすい。材料の安全性が求められるおもちゃの素材にも適している」と語った。
なお、キヤノンバージニアでは、シルクフィブロインの水溶液、パウダー、フィルム、ジェル、スポンジを扱っている。加えて、現状はシルクからフィブロインのみを抽出しており、セリシンは廃棄されているが、化粧品材料としての販売など用途を模索している。
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