先述したように関西工場では約20シリーズのチェアが作られている。それぞれ背もたれや脚の形状、張地の種類や本体の色などの違いを合わせると、約5万通りに及ぶチェアが作られる。
イトーキでは15桁の品名コードによってそれらを管理しているが、1年に1回しか作らないようなチェアもあり、仕様通りに作られているかを完成後に品名コードと照合検査する作業者への負担が大きかった。
自動化導入のきっかけとなったのは最近注目を集める顔認証システムのAI活用だ。イトーキ 生産本部 関西工場 滋賀第二製造部 部長の永山一基氏は「似通った人の顔でもAIが見分けて認識、照合できるなら、一個一個微妙な違いがあるチェアの照合検査にも使えるのではないかと考え、いくつかの企業に持ち掛けた」と語る。
検証した結果、同色でも種類が異なる張地や、脚のキャスター部品の微妙な違いなども見分けられることが分かった。2022年からは実際の本体組み立て工程にインラインで導入して、データの蓄積、検証を重ねている。
明るさを一定にするためカバーで覆った空間には、上部と前後の計3台のカメラを設置している。カメラごとに見るポイントは異なっている。コンベヤーで流れてきたチェアをカメラで捉え、画像を基にAIによって品名コードと照合する。
本体組み立てラインでは30〜40秒ほどで1台のチェアが出来上がる。照合検査もそのペースに合わせて行っている。AIは完成したチェアが品名コードと一致しているかを%で表すため、閾値を設定してそれ以下なら作業者に知らせる仕組みになっている。いずれにしても、引き続き作業者は全数検査する。
あくまで作業者の検査をサポートするものだが、永山氏は「“この椅子は違うかもしれない”というシグナルを出してくれるだけでも、作業者としてはとても助かる。AIがOK判定したものはほぼ間違っていない」と語る。
機械学習を用いているため、まだ学習していない種類のチェアが来るとエラーになる。精度の向上に向けて、さらなるデータの蓄積が必要だ。カメラの増設も検討している。
ロボットによる溶着システムも2019年から導入している。溶着はプラスチックや非鉄金属を熱を加えて溶かし、加圧して合わせ、冷却することで接合する技術だ。それを張地と芯材の接合に用いている。
まず張地は反物の生地からNC裁断機で切り出し、背もたれや座面の芯材に被せるが、張地のままでは被せることができないため、樹脂製のPPシートを1枚ずつ作業者がミシンで張地に縫製し、PPシートを芯材に引っかけていくことで張地を固定する。ただ、固いPPシートを引っ張り、芯材の各箇所に引っかける作業は、縫製作業と合わせて作業者の負担になっていた。
そこでNC裁断機で、PPシートの形状を取り込んだ形に張地を裁断し、溶着によって芯材と張地を直接接合するシステムを開発した。
これによってPPシートの縫製作業がなくなる上、原材料費が高騰する中でPPシートのコストも削減できる。そして、この溶着システムにもAIを活用している。
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