OKIと信越化学工業は、信越化学工業が独自改良したQST基板から窒化ガリウム機能層のみをOKIのCFB技術で剥離し、異種材料基板へ接合する技術について説明した。
OKIと信越化学工業は2023年10月5日、東京都内で会見を開き、信越化学工業が独自改良したQST基板から窒化ガリウム(GaN)機能層のみをOKIのCFB(Crystal Film Bonding)技術で剥離し、異種材料基板へ接合する技術について説明した。
富士経済が発表した「2023年版 次世代パワーデバイス&パワエレ関連機器市場の現状と将来」によると、従来のパワーデバイス(半導体)の耐圧性や低損失性の限界を超えた次世代パワーデバイスの世界市場は2035年に5.4兆円に達する見込みだという。次世代パワーデバイスを実現する材料として注目されているのは、SiC(炭化ケイ素)、GaN、Ga2O3(酸化ガリウム)、ダイヤモンド(C)で、そのうち実用化されているのはSiCパワーデバイス、GaNパワーデバイスの2種類だ。
電力を制御するパワー半導体の用途は、電気自動車(EV)用や電車用のインバータ、小型家電用の電源など幅広いが、中でもEV用インバータは最も大きい市場とされている。現在、EV用インバータ市場でシェアが最も大きい次世代パワーデバイスはSiCパワーデバイスだ。その理由は、EVの急速充電につながる高電圧/大電流に対応した普及可能な縦型のSiCパワーデバイスが流通しているからだ。
一方、GaNパワーデバイスは普及可能な縦型がないため導入が進んでいない。例えば、比較的安価なシリコン(Si)基板でGaNをエピタキシャル結晶成長させたGaN on Si基板は垂直方向に絶縁バッファー層があるため縦型導電ができない他、成長させる際にSiとGaNの熱膨張差でSiに反りが生じクラックが発生する。GaN基板上でGaNをエピタキシャル結晶成長させたGan on Gan基板は垂直方向に絶縁層がないため縦型導電に対応しているが、GaN基板が高コストなため普及が難しい。
こういった状況を踏まえて、OKIと信越化学工業は今回の技術を開発した。同技術は、大口径のQST基板上で絶縁性のバッファー層を介してGaNをエピタキシャル結晶成長させた後、CFBの剥離技術で絶縁性のバッファー層を除いたGaN機能層のみを取り外す。続いて、CFBの接合技術で、そのGaN機能層を、導電性を持つメタルを成膜したさまざまな基板に取り付けることで、縦型のGaNパワーデバイスを実現できる。
同技術の提供方法は「Pre CFB」「Post CFB」の2種類が想定されている。Pre CFBでは、ユーザーが指定した基板に、QST基板とCFBの技術によりGaNの機能層を転写したものを提供する。ユーザー側でその基板を用いてGaNの高電子移動度トランジスタ(HEMT)/金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ(MOSEFT)デバイスを作る。
Post CFBでは、QST基板を提供されたユーザーがその基板上にGaNのHEMT/MOSEFTのデバイスを形成する。次に、CFB技術で、その基板からGaNのデバイスフィルムを剥離し、指定の基板に転写する。
なお、現状のCFB技術では6インチまでのQST基板にしか対応していないが、OKIでは、同技術のコスト競争力をさらに高めるために、2025年までに8インチのQST基板にCFB技術が使えるように設備投資をしていく見込みだ。
使用するQST基板は、米国のQromisが開発したGaN成長専用の複合材料基板で、2019年に信越化学工業がライセンスを取得している。同基板は、GaNの結晶成長に適した熱膨張係数を持つため、GaNをエピタキシャル結晶成長させても基板の反りが少なく、高耐圧性も有すことから20μm以上の厚膜GaNを堆積できる。さらに、熱によるひずみが小さいため、バッファー層を簡略化できる。信越化学工業 異種半導体基板推進室 理事 山田雅人氏は「6μmのGanエピタキシャル結晶成長について、GaN on Si基板よりGaN on QST基板は、成長時間が半分短く、GaN層を約2倍厚くできる」と利点を話す。
同基板は、国際規格「SEMI」と電子情報技術産業協会(JEITA)の規格に準拠する基板厚みのため通常の半導体装置で使える。さらに、信越化学工業が、6インチおよび8インチの大口径のQST基板を用意しており、同等コストの2インチのGaN基板と比べ、結晶成長したGaNを10倍確保でき、半導体チップのコストを10分の1に抑えられるという。加えて、両社はOKIのCFB技術でGaNの機能層を剥離したQST基板をリサイクルする技術を開発中で、そのリサイクル技術が完成すれば、さらなるコストカットを実現する。
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