理化学研究所は、最新の発光システムを用いて、異なる波長で極めて明るく発光する2種のマウス系統を開発した。生体深部組織の発光イメージングを飛躍的に改善するもので、生体システム理解への貢献が期待される。
理化学研究所は2023年9月8日、最新の発光システムを用いて、異なる波長で極めて明るく発光する2種のマウス系統を開発したと発表した。
従来の発光イメージング(BLI)では、北米産ホタル由来の発光酵素ルシフェラーゼ(Fluc)と、ホタル由来の発光基質ルシフェリン(D-luciferin)の反応を利用する。しかし、この反応で得られる光の強度は弱く、より明るく光る発光システムを持つ生物種が探索されていた。
そうした研究の中で、沖縄に生息するホタルのFluc(oFluc)を用いると、従来のFlucより4〜10倍明るく発光し、黄色に発色することをオリンパスの研究グループ(現エビデント)が発見。また、理化学研究所では、人工酵素Akalucと人工基質AkaLumine-HClにより、深赤色に発光し、従来法より発光システムの効率が100〜1000倍高い人工生物発光システムAkaBLIを開発している。
今回の研究では、この2つの発光システムを導入した2種類のマウス系統を作製した。これらのマウスは、そのままでは薬剤耐性遺伝子(Neo)カセットによりルシフェラーゼの発現が抑えられている。細胞種選択的に遺伝子発現を操作する技術Cre-loxPシステムを組み合わせることで、Neoカセットが取り除かれて特異的にoFlucまたはAkalucを発現し、標的の細胞や組織を発光させることができる。
Cre-loxPシステムを働かせてoFlucあるいはAkalucを発現したマウスに、基質であるD-luciferinとAkaLumine-HClをそれぞれ投与すると、oFlucを発現したマウスは黄色に、Akalucを発現したマウスは深赤色に発光した。発光強度は極めて強く、肉眼での観察や家庭用デジタルカメラでの撮影が可能だ。
これらのマウス系統を利用して、抑制性神経細胞をoFlucまたはAkalucで標識すると、脳や脊髄の神経細胞からの発光を確認できた。脳からの発光シグナルは、Akalucを用いたマウスの方がoFlucを用いたマウスより30倍以上強く、Akalucの基質であるAkaLumine-HClがD-luciferinより血液脳関門を通過しやすいことが示された。
一方、基質の生体内浸透度が問題とならない膵臓を標識した場合は、Akalucを用いたマウスもoFlucを用いたマウスも同程度の発光シグナル強度だった。
また、oFlucとAkalucを利用して、同一個体内で2色同時に発光イメージングできることも確認した。
今回開発した手法は、発光イメージングを飛躍的に改善し、生体深部の細胞を非侵襲的に可視化できることから、がんや免疫反応など生体システムの理解に役立つことが期待される。
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