「1Dモデリング」に関する連載。連載第23回は各種炊飯器の分析と炊く方法(レシピ)を調査し、鍋材料が重要な役割を担っていることを確認する。その上で、うまく材料を選択することで、入力制御なしに“お米をおいしく炊く経験的方法”を実現する理想的なアプローチがあることを示す。最後に、この理想的な炊飯器をモデリングし、解析して炊飯性能を確認する。
前回、お米のモデリングならびにお米を炊く装置(炊飯器)の仕様について考えた。
今回はこれを受けて、実際のさまざまな炊飯器の分析および炊く方法(レシピ)を調査し、これらを通して鍋材料が重要な役割を担っていることを簡単な解析で確認する。その上で、うまく材料を選択することにより、入力制御(火加減を状況に応じて調整)することなしに、“お米をおいしく炊く経験的方法”を実現する理想的なアプローチがあることを示す。最後に、この理想的な炊飯器をモデリングし、解析してその炊飯性能を確認する。
お米を炊く装置(炊飯器)はさまざまである。図1に代表的な4種の方法(電気炊飯[IH式]、電気炊飯[ヒーター式]、ガス炊飯、土鍋炊飯)を模式的に示す。それぞれの特徴は以下の通りである。
電磁誘導により、釜を直接加熱する方法である。IHは“Induction Heating”の略で、IHコイルの入力を制御して温度制御することにより、お米を炊き上げる。釜には外容器があり、これで密閉加圧することにより、100℃以上の温度での炊き上げも可能となり、時間短縮の効果も期待できる。炊飯後も一定の熱を加え続けることにより保温効果も維持できる。
釜底をヒーターで加熱して、熱伝導で釜を加熱する方式である。IH式と同様に温度制御することによりお米を炊き上げる。国産第1号の電気炊飯器は2重釜方式で、外釜の水を加熱し、その熱で内釜のお米と水を加熱して炊き上げていた。ただし、密閉構造ではないため、保温には適さなかった。
熱源として電気ではなく、ガスを用いる方法である。使用する釜は通常の鍋に近い形式となっている。最近はガスコンロに炊飯モードが付いており、鍋底温度をモニタリングして、電気炊飯同様にある程度の温度制御により自動炊飯が可能となっている。ただし、普通の鍋であるため保温性は期待できない。
形態としては、ガス炊飯であるが釜として通常の鍋ではなく、土鍋を使用する。通常の鍋と土鍋の違いは、土鍋は熱伝導が悪く、お米&水の過熱に時間がかかることだ。一方、冷めにくいという長所もあり、熱源なしで蒸らしができ、ある程度の保温性もある。また、鍋ぶたも相応の重量があるため、水の蒸発も抑えられる。
電気炊飯器[IH式]、ガス炊飯器、土鍋炊飯器について、それぞれの取扱説明書(参考文献[1][2][3])を基に、「お米を炊く」レシピを以下に示す。なお、ガス炊飯器と土鍋炊飯器に関しては、実際に使用して確認した。
白米一合当たりの水の量は約200mlでお米の量が増えた場合は比例で水の量も増やす。炊飯時間(蒸らしも含めて)は炊くお米の量によらず、約50分である。お米を炊く経験的知識にのっとって温度制御しているものと思われる。炊くお米の量によらず炊飯時間が同じということは、炊くお米の量に合わせて熱量を制御(お米の量が多いほど高熱量)していると考えられる。また、玄米一合当たりの水の量は約300mlで、玄米の量が増えた場合は比例で水の量も増やすとある。炊飯時間(蒸らしも含めて)は炊く玄米の量により、85〜105分程度と白米の約2倍要する。水量が多いこと、水が玄米に浸透しにくいことが原因と考えられる。
電気炊飯器との大きな違いは水の量である。取扱説明書の記載から、X合のお米を炊く際の水の量は、
となることが分かった。前回の図5および図6の蒸発量に相当するのが100mlで、残りがお米に吸収される水の量と思われる。実際に炊飯してみると、ガス炊飯に使用する鍋ぶたが軽量のため、かなりの量の水分が蒸気となって外に放出される。炊飯時間は蒸らしの約10分を含めて、お米の量により、30〜40分程度である。お米の量に比例して、炊飯時間が増えているわけではないので、ある程度、お米の量に応じて熱量を制御しているものと考えられる。なお、火加減の調整は強/中/弱の3段階である。これは状況を見て自動調整される。
取扱説明書に記載の内容の概要を以下に記す。
(A)1合半の白米を炊く場合:
1.約300mlの水を加え、20分間浸水
2.中火で約12〜14分炊く
3.火を切って20分蒸らす
(B)1合の白米を炊く場合:
1.200mlの水を加え、20分間浸水
2.中火で約10〜12分炊く
3.火を切って20分蒸らす
(C)1合の玄米を炊く場合:
1.約280mlの水を加え、8時間浸水
2.中火で約11〜13分炊き、その後、弱火で約10分炊く
3.火を切って30分蒸らす
白米の場合に関しては、1合当たり200mlの水、炊飯時間はお米の量により10〜14分となっている。水の量が電気炊飯と同じなのは、フタの重量のおかげで蒸発して放出する水分が少ないためと考えられる。実際に炊飯しても土鍋ぶたからの蒸気の流出はかなり少ない。蒸らしの時間が長いのは、土鍋の冷めにくい特質を生かして火を切った後の残熱を利用しているものと思われる。
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