人とくるまのテクノロジー展2023

自動運転の進化と人材育成を両立するには? 競争促す「コンテスト」自動運転技術(1/3 ページ)

名古屋大学 未来社会創造機構 モビリティ社会研究所 特任教授の二宮芳樹氏が自動運転技術の開発と人材育成の両方に資する技術開発チャレンジへの期待を語った。

» 2023年08月30日 06時00分 公開
[齊藤由希MONOist]

 「人とくるまのテクノロジー展 2023 名古屋」(2023年7月5〜7日、Aichi Sky Expo)において、名古屋大学 未来社会創造機構 モビリティ社会研究所 特任教授の二宮芳樹氏が「自動運転の現状と自動運転AIチャレンジへの期待」と題した講演を実施。自動運転技術の開発と人材育成の両方に資する技術開発チャレンジ(コンテスト)への期待を語った。

自動運転の現状

 日本の自動運転システム開発のロードマップは、自家用車とサービスカーに分かれており、2025年が重要な年になる。ロードマップでは、2025年には自家用車で高速道路でのレベル4の自動運転車を、サービスカーでは無人運転車による移動サービスを全国50カ所で実現しようとしている。「これに向けて非常に多くの努力がなされている」(二宮氏)

 経済産業省と国土交通省が主催する「自動走行ビジネス検討会」では、クルマのデジタル化を進める重要性が指摘された。自動運転車を開発するだけでなく、移動や物流のサービスモデルも作らなければならないと議論されている。二宮氏は「安全性の評価にも未解決の部分がある。ソフトウェア人材の確保も課題だ」と述べる。

 クルマのデジタル化に関しては、一般道の自動運転システムやADAS(先進運転支援システム)の共同開発やミドルウェアの標準化、E/E(電気電子)アーキテクチャの開発ロードマップ、ビークルOSのAPI公開、ソフトウェアデファインドビークル開発の競争軸や日本の優位性の議論、V2Xやプローブデータの活用などがテーマとなる。

 無人運転車による移動サービスを全国50カ所で実現するというのは、非常に大胆な目標である。移動や物流のモデルについては、これを指標に既存施策の妥当性や新規施策の必要性を検討することとなる。また、社会的課題の解決や国際競争力の向上に資することを目指さなければならない。

 安全性評価に関しては、日本ではドイツの「PEGASUS(ペガサス)プロジェクト」に対応した「SAKURA(サクラ)プロジェクト」が推進されている。シナリオベースでの自動運転車の安全性評価がその取り組みの1つだ。「高速道路に関しては安全性評価がかなり進んでおり、一般道に拡張しようとしている。また、自動運転車の評価にはシミュレーション技術が不可欠であり、その技術を確立しようという取り組みも行われている」(二宮氏)

 ソフトウェア人材の確保では、既に自動車業界で働いている人のリスキリング、労働市場における採用拡大、大学など高等教育機関を活用した人材育成や人材発掘、オープンソースコミュニティーを巻き込んだ人材育成の推進などが進んでいる。

自動運転技術の開発競争を促す環境

 人材の確保や育成を進めることで、自動運転社会に向けた課題を解決できないか……。二宮氏は技術開発チャレンジ(コンテスト)が自動運転技術の歴史を作ってきたことを振り返った。

 米国国防高等研究計画局(DARPA)が実施するロボットカーレース「DARPAグランドチャレンジ」は、2005年にスタートし、2007年には市街地を想定した環境で自動走行を行う課題が設定された(DARPAアーバンチャレンジ)。6時間以内に96kmのコースを走行し、賞金は1位が200万ドル、2位が100万ドル、3位が50万ドルとされた。大学や企業、個人とさまざまなグループが参加しているのが特徴だ。

 「2030年に実現するのは到底難しいとされてきた市街地の自動運転システムを、こうすればできるんじゃないかと提案した画期的な出来事だった。その後、2009年にはGoogleカーがサンフランシスコの街を自動走行で走って見せた。これもインパクトがあった」(二宮氏)。2010年代に自動運転技術の開発に目を向けさせるきっかけにもなったという。

 「Googleカーを作り上げる際に主導したのは、DARPAアーバンチャレンジで2位を取ったスタンフォード大学のチームでリーダーを務めたセバスチャン・スラン氏と、自動運転技術の開発を手掛けるオーロラにいるクリス・アームソン氏だ。2012年にはカリフォルニアで自動走行の免許を取って、非常に速い勢いで100万kmの走行を達成した。こうした動きが自動運転技術の開発の機運を決定づけ、2013年には日本の霞が関で首相が自動運転車に乗るなど大きなブームにつながっていった」(二宮氏)

 GoogleカーはWaymo(ウェイモ)に引き継がれ、現在はサンフランシスコで運転席に人のいないロボットカーサービスを提供するまで発展している。2000年ごろからは想像できないような成果が生まれているという。

 中国でも同様に技術開発チャレンジが行われてきた。2009年ごろから、チャイナインテリジェントビークルフューチャーチャレンジが開かれている。当初は軍の組織や国の研究機関が中心で、粘り強く10年以上続けてきた。その間、国が試験場を提供するなどさまざまな支援を行ってきた。そして現在、オートX、バイドゥ、アポロ、ポニー、ウィーライド、ディディなどさまざまなスタートアップ企業がレベル4の自動運転タクシーの実証を行っている。また、北京や上海などの都市では実証ではなくサービスとしての提供も始まっている。

 米国や中国は、ロボットタクシーの開発や実証を進めるのに有利な環境であるが、現状では大きく利益を生み出すようなものではなく、まだ技術開発とバランスを取りながらやっていく段階だ。ただ、これを続けていくことが非常に重要な技術の蓄積になる。

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