さらに難易度が高いのが予見に関する基準だ。「人間のドライバーは、危ないことが起きることを予見してあらかじめブレーキを踏む。それをどう基準として作るか、商用車に拡張できるか。さらに、この基準を実車でできるかどうか。シミュレーターが重要になるが、シミュレーターで達成できたことがリアルでもできると言っていいのかどうか。検証可能なシミュレーターがあれば解決できる」(二宮氏)。
自工会が関わった国際基準が基にしている安全性のフレームワークには、シミュレーターの作り方に対する考え方も示されている。まだ課題は多いが、実車と同じ検証ができていることを主張できるシミュレーションを作れることが非常に重要になっている。
外乱を再現するシミュレーターに関しては、SIP(戦略的イノベーション創造プログラム)の取り組みの中で大きなプロジェクトが進んでいる。「研究開発の途中ではあるが、実写に見えるような絵が出るようになっている。従来のゲームエンジンベースのシミュレーターよりもかなり良くなった。ただ、さまざまな種類の外乱に対して調整がまだかなり必要で、シミュレーターとリアルを一致させる合わせ込みが課題だ」(二宮氏)
実車を使った課題解決は自動車メーカーが資金を投じないと難しい。自動運転車の安全性評価のフレームワークに基づいて検証できるシミュレーターがあれば、技術開発への参加者が増える。安全性評価のフレームワークを技術開発チャレンジの評価基準にもすることで、自動運転技術の課題を解決する近道になる。また、実車と同じ検証が可能なシミュレーターで、まだ基準が定まっていない領域の議論にチャレンジすることも考えられる。
日本では、自動運転技術に関わるソフトウェア人材が2025年に2万1000人不足すると予測されている。これは2019年に経済産業省が発表した数字で、現在はソフトウェア人材の必要性がさらに増しており、人材獲得競争も激化している。海外との待遇面の差も大きい。少子化や理系離れといった根本的な問題もある。
国内外で“ソフトウェア人材”に対するイメージに違いもある。日本では、仕事を請け負ってプログラムを書くこととイメージされることが多いが、海外ではコンセプトやアーキテクチャなど上位レベルに携わる人材も含めてソフトウェア人材と呼ばれている。親が子どもに将来就いてほしい、あるいは子供が将来なりたいと思う職業にソフトウェアエンジニアが選ばれるような、イメージ向上も課題だ。
異業種から自動車業界に移る人材を増やしたり、大学などの講座を充実させ、費用も助成するなどリスキリングで人材を確保したりすることが今後一層求められる。日本国内だけでなく、北米やインド、ASEANなど国際連携によって人材を確保することも必要になるという。国内外の大学で協力した自動運転講座の開講や、高等専門学校向けの自動運転講座の導入などが進められている。高専から自動運転AIチャレンジへの参加が増えれば、人材育成の場としてさらなる活性化が期待できる。
日本だけでなく中国でも少子化が問題となっており、中国では自動運転技術に関連するさまざまな領域の技術者が1万3000〜3万7000人不足すると見込んでいる。人材獲得競争は一層激しくなりそうだ。
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