BlackBerryはQNX ソフトウェア開発プラットフォームの最新版となるSDP8.0の早期アクセスの提供開始と、クラウド接続型のAIプラットフォーム「BlackBerry IVY」の展開を発表した。
BlackBerryは2023年7月31日、会見を開き、QNX ソフトウェア開発プラットフォームの最新版となるSDP8.0の早期アクセスの提供開始と、クラウド接続型のAI(人工知能)プラットフォーム「BlackBerry IVY」の展開を発表した。
SDP8.0は、高性能化する車載用SoC(System on Chip)での処理を想定したQNXの次世代OSだ。高い拡張性を持たせたことで、低遅延な処理や高性能ネットワーキングを実現する。自動車メーカーが開発する車載OSとは競合せず、補完するとしている。早期アクセス版は2023年6月から提供しており、ライセンス販売は2023年内を予定している。
IVYはQNXの基盤上にあるエンドツーエンドのミドルウェアのプラットフォームで、Amazon Web Services(AWS)と共同開発した。日本では2023年6月から一般提供を開始した。パートナー企業が参加するエコシステムにより、タイヤやブレーキの消耗予測、バッテリー管理、セキュアな決済、音声アシスタントの統合などさまざまな分野やユースケースをカバーする。車両側でデータ処理や機械学習を実行できるようにすることで、車両からクラウドに送信するデータ量を削減しながらコネクテッドサービスを提供できる。
SDP8.0は、自動車に搭載されるマルチコアプロセッサのコア数が増加する中で、車載コンピュータが最大限の性能を発揮できるよう設計したという。QNXが得意とする安全性やセキュリティを備え、POSIXに準拠したマイクロカーネルベースのリアルタイムOSとしての強みも維持している。マイクロカーネルのコアに対し、各種ドライバやセンサーが外側にあり、さらにその外側にアプリケーションがあるというアーキテクチャなので、問題が起きた際に切り分けて、システム全体がシャットダウンするのを回避できる。機能安全などの認証を取得したコンポーネントもSDP8.0に含まれる。
SDP8.0は、コア数の増加によるパフォーマンスのスケーリング係数は1対1で、「商用リアルタイムOSとしては前例がない」(BlackBerry)という。これにより、大規模な並列処理への対応や低遅延性、高性能ネットワーキングを実現する。SDP8.0の統合開発環境ではツールチェーンのアップデートも図った。
IVYは既に複数の企業が採用を表明している。ボッシュや、中国でコネクテッドカー向けのソフトウェアを開発するPATEOといったサプライヤーに加えて、鴻海精密工業(ホンハイ)とFoxconnが主導する自動車開発のグループであるMobility in Harmony(MIH)Consortiumが、次世代プラットフォームの基盤としてBlackBerryを採用する。IVYを採用した車両は、東風汽車とPATEOの開発により2023年12月にも発売される予定だ。
IVYは車両のデータや分析に基づいたサービスの導入を簡素化することを目指しているミドルウェアのプラットフォームだ。ミドルウェアの4分の3が車載システムで、残りはクラウド側にあるという。機械学習のモデルやアルゴリズムを車載システムに実装でき、車内でさまざまなデータ処理を行うことができる。従来であればクラウドに送信して処理していたデータ量を70%削減できるため、コネクテッドサービスの運用コストの抑制も図れる。
エコシステムを通じて実現する具体的なユースケースとしては、タイヤやブレーキの消耗検知がある。30件以上のさまざまな車両の信号を処理し、タイヤやブレーキの消耗度合いをパーセンテージやミリメートル単位の数値でドライバーに知らせることができる。自動車メーカーはこの検知結果を基に整備工場への入庫を誘導するなどのサービスを提供できる。自動車メーカーは収益化につながるサービスやアプリケーションを模索している。IVYは短期間でのサービス開発や市場投入を支援する。
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