AI TOOL SOMMELIERの研究開発は、「熟練者の経験知からスマート工場化を実現する切削工具管理システム」として2020年度のサポイン事業に採択され、2020年8月〜2023年2月の事業期間で、モリマシナリー、岡山大学、両備システムズの3社で開発を進めた。
サポイン事業の期間中は、「多品種・少量データにおいても工具摩耗を高精度に判定するAI方式の高度化」「多種多様な工具においても熟練者判断を実現する最適工具選定システムの開発」「熟練者ノウハウを伝承するAIツールソムリエ実証機開発」といったテーマでAIツールソムリエの機能開発を推進した。
「多品種・少量データにおいても工具摩耗を高精度に判定するAI方式の高度化」では、「サイズ・形状が異なる工具摩耗、欠けレベルの高精度検出方式開発」と「少量工具データを工場間連携によりビッグデータ化する分散学習方式」の開発を行った。
「サイズ・形状が異なる工具摩耗、欠けレベルの高精度検出方式開発」は、両備システムズが担当し、欠陥検出モデルの開発を目指した。2020年度はΦ8(直径8mm)スクエアエンドミルにターゲットを絞り、その画像を用いてAIの画像処理手法の1つである物体検出で研究を行い、「サイズ違いの工具に対して検出精度が低い」「種類違いの工具に対して検出精度が低い」といった課題を明らかにした。
2021年度は、「サイズ違いの工具に対して精度が低い」という課題を解消するために、Φ12(直径12mm)スクエアエンドミルの画像データをAIの教師データとして拡充した。2022年度は「種類違いの工具に対して検出精度が低い」という課題を解決するためにΦ10(直径10mm)スクエアエンドミルやΦ8ボールエンドミルの画像データをAIの教師データとして加えた。さらに、画像データにAIの判定が行えるプロトタイプの欠陥検出モデルの構築を進めた。
モリマシナリー FA事業部 製造技術課 課長の小倉大典氏は「サポイン事業終了後には、学習済みAIを実装したプロトタイプの欠陥検出モデルを高性能PCにインストールした。この高性能PCを接続したTOOL COLLAGEで、(AIの)学習とテストに使用していないエンドミルを撮像した新規画像に欠陥検出モデルを使用し、エンドミルの欠陥を正答率85%の精度で検出できるようになった。例えば、エンドミルの画像データに刃先の位置情報を入力しなくてもAIが欠陥を検出し、熟練技能者が見落とした欠陥も検出した。2023年度はプロトタイプの欠陥検出モデルを用いたPoC(概念実証)の実施とβ版アプリケーションの開発を行う」と語った。
「少量工具データを工場間連携によりビッグデータ化する分散学習方式」の開発は、岡山大学 環境生命自然科学学域の高橋研究室が担当した。
2020年度は1台のPC上に分散環境を構築し、簡単なAIモデルで学習する実験を行い、その分散学習方式の妥当性を確認した。2021年度は、複数のPCでAIの分散学習を行うためのパラメーター通信法を設計して、OSがWindowsの3台のPCに分散学習方式を実装し、各PCでAIがエンドミルのカラー画像を学習できるかを確認し、正しく動作することを確かめた。加えて、従来の8分の1以下の時間で機械学習が行えるパラメーター通信法も確立した。
2022年度はモリマシナリー営業拠点と岡山大インキュベータの2拠点で分散学習の実証実験を行った。2023年度はVPN(仮想プライベートネットワーク)を活用した分散学習時間の低減や遠隔操作による3拠点での分散学習の実証実験の実施、パラメーター値を暗号化して送受信する方法の実装と検証を行う予定だ。
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