キヤノンは、次世代の量子ドットディスプレイに適用可能な材料として、ペロブスカイト構造を持つ量子ドットインク(ペロブスカイト量子ドットインク)を開発し、実用化可能な耐久性を世界で初めて実証した。
キヤノンは2023年5月29日、次世代の量子ドット(QD)ディスプレイに適用可能な材料として、ペロブスカイト構造を持つ量子ドットインク(ペロブスカイト量子ドットインク)を開発し、実用可能な耐久性を世界で初めて実証したと発表した。
キヤノン製のペロブスカイト量子ドットインクは、4K/8K放送などのUHDTV放送方式の映像信号についてITU(国際電気通信連合)が規定した「ITU-R BT.2020」の色域の94%をカバーできる。さらに、量子ドットディスプレイに使用することで、画素サイズが小さい場合でも効率良く光を変換可能なため、将来的にはこれまで実現できなかった8Kなどの超高精細量子ドットディスプレイを実現する可能性が期待されている。
ディスプレイデバイスの性能や画質は日々進歩を遂げている。中でもディスプレイの高画質化のニーズに応えるため、量子ドットを活用する動きが活発になっている。量子ドットは高輝度で高い色純度の発光が可能な直径数nmの半導体微粒子だ。
量子ドットを用いたディスプレイは色域が広く、表現力が高いとして注目されている。量子ドットには高い色純度と光の利用効率が求められているだけでなく、環境配慮の視点から、これまで代表的な材料だったカドミウム(Cd)を使用しないことへの関心が高まっている。
こういった状況を踏まえて、キヤノンはペロブスカイト量子ドットインクに注目し、開発を進めてきた。一方、Cdフリー材料として、InP(リン化インジウム)量子ドットと並び注目されているペロブスカイト量子ドットは、色純度と光の利用効率がともに高く、高輝度/広色域/高解像度を兼ね備えたディスプレイを実現できることが期待されている。
しかし、実用化に向けては耐久性の低さが課題となっていた。そこで、キヤノンは、プリンタのインクやトナーの開発を通して培ってきた技術を応用し、独自の手法でペロブスカイト量子ドットに保護層を形成することで、色純度と光利用効率を保持したまま、実用化可能な耐久性を実証したペロブスカイト量子ドットインクを開発した。
通常のInP量子ドットインクではITU-R BT.2020の色域の88%をカバーしているのに対し、キヤノンのペロブスカイト量子ドットインクは94%をカバーすることに成功している。また、光の利用効率が高いため、消費電力を約2割減らせると見込んでいる。
なお、量子ドットを用いた有機ELディスプレイは、青色の光源を量子ドットによって赤色と緑色に変換する。これにより、白い光源を用いる場合と比較し、色純度の高い赤色と緑色の光を得ることができ、より広い色域のディスプレイを実現する。
加えて、ペロブスカイト量子ドットは量子ドットの組成と粒径によって発光波長(色)を制御できるという特徴を持つ。ペロブスカイト構造とは結晶構造の一種だ。ペロブスカイト構造を構成する元素を変えることで超伝導や強誘電性、発光、光電変換などさまざまな特性を発現させることができ、機能性材料としての利用が期待されている。ペロブスカイト構造の応用例としては、安価で設置場所を選ばないペロブスカイト太陽電池が注目されている。
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