人とくるまのテクノロジー展2023

二輪車メーカー4社で水素エンジンを共同研究、「内燃機関残したい」脱炭素

カワサキモータース、スズキ、ホンダ、ヤマハ発動機は小型モビリティ向けの水素エンジンの基礎研究を行う「水素小型モビリティ・エンジン技術研究組合」を設立する。

» 2023年05月18日 06時00分 公開
[齊藤由希MONOist]

 カワサキモータース、スズキ、ホンダ、ヤマハ発動機は2023年5月17日、東京都内で会見を開き、二輪車など小型モビリティ向けの水素エンジンの基礎研究を行う「水素小型モビリティ・エンジン技術研究組合(HySE:Hydrogen Small mobility & Engine technology)」を設立すると発表した。二輪車メーカー4社で協力するため、経済産業省から技術研究組合を設立する認可を受けた。

写真左から理事候補のホンダの古谷昌志氏、スズキの田中強氏、カワサキモータースの松田義基氏、理事長候補のヤマハ発動機の小松賢二氏。ヤマハ発動機 社長の日高祥博氏、カワサキモータース 社長の伊藤浩氏、スズキ 社長の鈴木俊宏氏、ホンダ 二輪パワープロダクツ開発生産統括部長の塚本飛佳留氏[クリックで拡大]

 二輪車に水素エンジンを搭載する場合、四輪車と比べて小出力で高回転域までカバーするため、既存の水素エンジンの知見でカバーすることが難しい。水素エンジンを搭載する際の車両のパッケージングでも制約がある。活動期間は5年を目安とし、出力20k〜100kW程度の小型水素エンジンの製品化に向けた基礎技術にめどをつける。規格化や標準化に向けた議論も進める。

 ヤマハ発動機 社長の日高祥博氏は「小型の水素エンジンは研究開発や量産の実績がない新しい取り組みだ。現時点でモノになるかも分からないため、やりながら考えていくことになるが、内燃機関を残したい。(ライダーとしては)電動もいいが、内燃機関にも魅力があると思っている。全て電動化するのは少し寂しい」と水素エンジンへの期待を述べた。

 二輪車メーカー4社で水素エンジンに関して協力することは2021年11月には決まっていた。当初はカワサキモータースとヤマハ発動機は二輪車向け水素エンジンの共同研究の検討を開始し、スズキとホンダも加わることになった。技術研究組合として設立を決める前から、4社のエンジニアが集まって議論を重ねてきたという。

川崎重工とトヨタも参加

 HySEの理事長候補はヤマハ発動機 執行役員 技術・研究本部長の小松賢二氏で、正組合員は二輪車メーカー4社となる。また、特別組合員として、川崎重工とトヨタ自動車が参加する。川崎重工は技術研究組合のCO2フリー水素サプライチェーン推進機構(HySTRA)の主幹事として持つ水素や技術研究組合運営のノウハウを、トヨタ自動車は四輪車向けの水素エンジンの知見を提供する。今後、海外の二輪車メーカーやサプライヤーにも参加を募る。

 HySEは水素エンジン本体と水素充填システムに分け、テーマごとのワーキンググループで研究を進める。水素エンジン本体は、シミュレーション活用に力を入れる。カワサキモータースが多気筒エンジン、ヤマハ発動機が単気筒エンジンの実機研究を主導する。スズキは要素部品の実験を通じてモデル構築をリードする。ホンダは実機と要素部品のモデルを連携させたモデルベース開発(MBD)を推進していく。実機と連携しながらシミュレーションの精度を高める。

 モデルベース開発自体は自動車メーカー各社が活用に乗り出しているが、小型の水素エンジンは燃焼の条件が異なりシミュレーションの前例がない。まずは実機で現象を把握しながらモデルに落とし込む。その上で課題を明確にし、モデルベース開発を使って解決するめどをつける。実機のデータとモデルを突き合わせる作業は、個社で行うには負担が大きいため協力する。

 水素充填システムでは、ヤマハ発動機がタンクを、カワサキモータースが燃料の配管と減圧バルブの研究を主導。水素タンクは固定式と交換式の両方を検討する。

 研究の主導役は二輪車メーカー4社がそれぞれ分担して務めるが、ワーキンググループは各社の技術者での混成とする。技術研究組合を通じて精度検証されたモデルやデータを得て、個社の競争領域となる製品開発につなげる。

水素エンジンの課題

 水素を燃料として使う場合、燃焼速度の速さに加えて、着火領域が広く燃焼が不安定になりやすいため、異常燃焼が起きる。燃焼をどうコントロールするかが課題となる。また、燃焼時に生成された水がサビの原因になったり、オイルに混入してエマルジョンが起きたりする。さらに、二輪車など小型モビリティでは燃料タンクのレイアウトが難しい。

 理事候補のホンダの古谷昌志氏は「水素は着火性がガソリンの9倍、火炎範囲が14倍なので、取り扱いは課題ではあるが、手なずければ薄い燃料でも燃焼できるのがメリットになる」と燃料としての水素の可能性に前向きだ。

 特別組合員のトヨタ自動車は、こうした課題に対する知見も提供する。

 これまで、二輪車は四輪車と比べて脱炭素に向けて有利な点があるとされてきた。四輪車よりも燃費が良好であり、日本で見れば運輸部門に占める二輪車のCO2排出量は小さい。また、1人の移動のために5人乗りのクルマを走らせるようなムダも起きない。

 二輪車を単体で見たときのこうしたメリットは今後も変わらないが、四輪車よりも二輪車のユーザーが多い新興国などでは二輪車全体のCO2排出量が大きくなる。そうした領域に向けてCO2排出を減らしていく上で、国によってエネルギー事情が異なることを踏まえ、水素エンジンを含む“マルチパスウェイ”の取り組みが欠かせない。

→その他の「脱炭素」関連記事

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.