今の使い方でEVに乗り換えて走行距離は足りる? DeNAがシミュレーション技術電動化

DeNAは、現在のクルマの使い方を基にEV(電気自動車)の実際の走行距離や導入効果を予測するシミュレーション「FACTEV(ファクティブ)」を開発した。

» 2023年03月28日 06時00分 公開
[齊藤由希MONOist]

 ディー・エヌ・エー(DeNA)は2023年3月27日、現在のクルマの使い方を基にEV(電気自動車)の実際の走行距離や導入効果を予測するシミュレーション「FACTEV(ファクティブ)」を開発したと発表した。2023年4月1日からオートリース会社4社に有償で試験提供し、2024年度の商用化に向けて事業化の可能性を見極める。まずは乗用車が対象だが、トラックやバスなど商用車への対応も検討している。

 EVが満充電から走行できる距離はカタログ値として公表されているが、エンジン車のカタログ燃費と同様に運転の仕方などさまざまな要因によって変動する。また、EVの場合は気温による影響も大きく、季節によって走行距離が変わるため、実燃費ならぬ“実走行距離”を把握しづらい。その不安が日本でEVが売れにくい要因だとDeNAはみている。

現在のクルマの使い方を基にEVの実際の走行距離や導入効果を予測するシミュレーション「FACTEV」[クリックで拡大] 出所:DeNA

 試験提供を始めるシミュレーションのファクティブは、実際に乗ったり買ったりする前に、その人の使い方に合わせてEVの実走行距離を予測し、不安を解消した上でEVに乗り換えられるようにする。

 シミュレーションを行うに当たって、さまざまな走行データを収集できるコネクテッドカーである必要はない。車検証や定期点検の情報、法人の車両の場合は運行管理台帳などの情報を使用する。加えて、乗車人数や用途(自家用か業務用か、自家用の場合は遠出の有無、業務用の場合は業種など)、そのクルマを使う地域、1年間にクルマを使用する日数、乗り換えを検討している車両のセグメントなどを入力する。

 こうした情報を基に、EVを含む電動車から最適なモデルを複数提示し、それぞれのエネルギーコストやCO2排出量の削減効果を算出する。

ファクティブのシミュレーション結果のイメージ[クリックで拡大] 出所:DeNA

 また、満充電からの実走行距離は導入後1年目とバッテリーの劣化を考慮した5年目に分けて、各月で予測を示す。これにより、現在の車両で1日に走る平均距離や最大距離に対して、季節によってEVの実走行距離にどの程度余裕や不足があるかについても分かる。現在の使い方でEVの実走行距離が不足する場合は、充電計画をEV導入前に検討したり、HEV(ハイブリッド車)やPHEV(プラグインハイブリッド車)と比較したりできる。

 社内で予測データと実測値を比較したところ、予測値は実測値の特徴に近似しており、予測された実走行距離は実測値よりも低く出る安全寄りの予測であることが分かっている。

走行距離のシミュレーションのイメージ[クリックで拡大] 出所:DeNA

 バッテリーの劣化シミュレーションにより、一定期間が経過した後の残存性能も把握できる。リースアップ車や中古車の査定といった足元のメリットだけでなく、サーキュラーエコノミー(循環型社会)の実現に向けた足掛かりにもなると位置付けている。リースアップ車や中古車のバッテリーの残量に応じて、長い実走行距離が不要な配送など最適な用途に割り当て、モビリティに適さなくなった後で定置用の蓄電池として活用できれば、バッテリーの性能を余すことなく利用できる。

 DeNAは、こうした流れを実現しやすいのはオートリース会社だと期待を寄せる。シミュレーションを基に、残存価値に合わせて常に収益を得ながら、保有するEVのバッテリーをライフサイクル全体で使い切ることができるためだ。EVとバッテリーのデータを、中古車としての転売などで途切れさせることなく継続的に管理することがサーキュラーエコノミー実現に向けたカギになるという。

電池だけでなく、データが物を言う

 シミュレーションは精度の高さが問われる。DeNAのファクティブは、車両モデル、環境モデル、運転モデル、バッテリーモデルといった4つのモデルを基にしたアルゴリズムで実走行距離を計算する。

 車両モデルではパワートレイン、環境モデルでは交通工学、運転モデルは走行挙動の診断、バッテリーには化学とそれぞれ知識や技術が必要だ。「自動車メーカーではこれらが異なる部門なので縦割りになりやすいが、DeNAはIT企業なので異なる分野同士をつなげやすい」(DeNA フェローの二見徹氏)。

 これまで、自動車に関してDeNAがさまざまな実証を行う中で得たデータが生かされている。バッテリーモデルには、化学メーカーの企業秘密ではなく、バッテリーの化学反応に関する理論や日産自動車出身の二見氏が日産時代に蓄積した知見、企業の公開情報などが反映されている。

 競合他社のデータや新車販売後の情報が手薄になりがちな自動車メーカーとは異なり、複数のブランドや企業のデータを分析できる点がDeNAの強みになるという。

 「データの主権をDeNAが持つことは考えていない。ファクティブが持続可能になるには、特定の企業やサービスの色がつかないことが重要だ。データはお金に似ている。銀行は預かったお金を運用して利益を生む。預かったお金が銀行のものになるわけではない。データの活用にも共通するところがある。欧米ではデータの主権が重視されるが、EVが普及する中国では政府がEVのデータを公共財として召し上げている。その結果、EVのデータが世界で最も蓄積しているのは中国で、データに基づいた改善や革新が進められている。バッテリーをセル単位で追跡しようという試みもある。単に投資額が大きいから成長してきた、と見誤ってはいけない」(二見氏)

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