サムベリーナは、小型、軽量、高トルク、低消費電力というモーターにとって相反する要求を同時に実現することを目的に、インナーローター型で多極多スロットコアード構造を採用したブラシレスDCモーターとなっている。OKIマイクロ技研 マーケティング開発部 開発課長の山口仁志氏は「一般的な直径12mmのブラシレスDCモーターは、2極3スロット、コアレス構造を採用していることが多い。サムベリーナはこれらをモーター性能を最大限に発揮できるような構造とした」と説明する。
コアード構造を採用するモーターの性能を高める上では、コアに巻線材をどれだけ多く巻いているかを示す占積率を高めるとともに、高精度のコア構造を実現する必要がある。高精度のコア構造のためには一体コアを使用する方が有利だが、小型モーターであるサムベリーナでは一体コアにおいて巻線を行うスペースが非常に狭いために占積率が低下してしまう。一方、占積率を高めるためには分割コアに巻線を行ってから結合することも考えられるが、一体コアと比べてコア構造の精度が低下する。サムベリーナでは、磁場/構造シミュレーション技術と極狭スペース巻線技術を開発することで、一体コアでありながら分割コアと同等以上の占積率70%以上を実現している。
また、モーターのトルクを高めるためには、インナーローター側に作り込む4極のマグネットでも高い磁力を出せるような工夫が必要になる。4極マグネットの製法としては、無着磁のローターに着磁する一体マグネットと、極ごとに着磁した分割マグネットを結合する結合マグネットがある。一体マグネットは磁力を強くしづらく、結合マグネットはマグネットの配置精度が悪くなるという課題があるが、サムベリーナでは、分割マグネットを高精度に配置する技術により、一体マグネットと同精度で高磁力を持つ結合マグネットの開発に成功した。
これらの要素技術の開発によって実現したサムベリーナは、同じトルク定数を持つ既存品のモーターと比べて体積と重量を49%削減できている。同じ直径12mmの既存品のモーターと比べると、トルクは86%、消費電力は46%削減できているという。
事業展開としては、サムベリーナ本体だけでなく、さまざまなモーターアプリケーションに必須となる制御回路、減速機、回転センサーといった周辺モジュールも併せて提供していく方針だ。福島大学ベンチャーで減速機を得意とするミューラボと、小型関節ユニットやクラウン減速機を共同開発するなど、周辺モジュールは外部調達を行うとともに、自社開発も積極的に進めていきたい考えだ。
当面の主な用途は、産業用ロボットのロボットハンド向けを想定しているが、ドローン搭載カメラなどの制御や宇宙探査機、医療/介護機器など、小型で高トルクのモーターの需要は今後も広がると見込んでいる。2025年度には、直径12mmよりも大きいサイズの製品を投入することも検討している。「競合メーカーも高トルクの小型モーターを開発している事例があるが、コアレス構造が一般的であり用途も当社の想定とは異なるので十分に差別化できていると考えている」(山口氏)という。
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