「4. データ主体の権利行使に関する考慮事項」では、2023年9月より適用開始予定の「欧州データガバナンス法」(関連情報)の中で、経済社会におけるデータの潜在力活用の軸としての役割を担う「データ仲介機関」に焦点を当てている。
データガバナンス法によると、データ仲介サービス(データ仲介機関)は、一方の個人/企業と他方のデータユーザーをつなぐ中立的なサードパーティーとして機能する。データ仲介機関は、データをマネタイズすることはできず、中立性を保証するために厳格な要求事項を順守し、利益相反を回避しなければならない。実際には、データ仲介機関とその他の提供サービスを構造的に分離するとともに、仲介サービスの供給に関する商取引条件(例:価格体系)は、潜在的なデータホルダーやデータユーザーがその他のサービスを利用しているかに依存してはならないとしている。
ENISAのデータ共有報告書では、データ主体とデータ仲介機関の間の相互作用に関連するポリシー設定/強制の複雑性を指摘している。その上に、個人データを2次利用する研究機関のデータ有効活用者が関わると、さらに関係が複雑化することになる。
図4は、データ仲介機関とデータ有効活用者の間の相互作用を示したものである。
データ仲介機関とデータ有効活用者は、以下のような点に留意する必要があるとしている。
さらに、データ共有報告書では、図5に示す通り、国境を越えたデータ仲介機関同士のデータ交換のユースケースを挙げている。
このケースでは、患者と病院の間で一次利用される個人データを、ある国から他の国に移転するか否かの判断を、国家レベルのデータカストディアン組織(例:データのオーナーまたは管理者)または同様のデータ仲介機関が行う。このような場合、データ仲介機関の間の通信プロトコルは、特定の要求およびその通信面をカバーする必要がある。
加えてデータ共有では、ロギングやレポーティングの果たす役割も大きい。例えば、データのレスポンスがデータ有効利用者に送信された時、どのデータを含むかに関する意思決定プロセスの正確な詳細を、データ仲介機関側で無期限に保存して、後々データ主体やデータ有効利用者、法執行機関およびその他の外部ステークホルダーに告知できるようにしておく必要がある。
データ有効利用者が設定したデータ要求に対するデータのレスポンスを充足するために、データ仲介機関は、自らコントロールする全てのデータセットについて深い知識を有する必要がある。ただし、これにより、個人のデータ記録の詳細が、データ仲介機関に開示される可能性もある。この報告書では、プライバシー保護データ選定の手法として、前述の属性ベース暗号化を推奨している。
本連載第88回で触れたように、現在、EU-米国間の個人データ移転問題解決に向けた最終作業が、欧州データ保護委員会(EDPB)と米国商務省の間で行われている(関連情報)。技術面では、米国商務省傘下の国立標準技術研究所(NIST)が中心となり、「プライバシーエンジニアリングプログラム(PAP)」を展開している(関連情報)。
データソース側のエッジに位置する医療機器メーカーとしては、各国/地域の個人情報保護規制に対応するデータ保護/共有エンジニアリングの研究開発動向を継続的にウォッチし、自社の製品やサービスに反映させていくことが求められるだろう。
笹原英司(ささはら えいじ)(NPO法人ヘルスケアクラウド研究会・理事)
宮崎県出身。千葉大学大学院医学薬学府博士課程修了(医薬学博士)。デジタルマーケティング全般(B2B/B2C)および健康医療/介護福祉/ライフサイエンス業界のガバナンス/リスク/コンプライアンス関連調査研究/コンサルティング実績を有し、クラウドセキュリティアライアンス、在日米国商工会議所、グロバルヘルスイニシャチブ(GHI)等でビッグデータのセキュリティに関する啓発活動を行っている。
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