ビジネスを進める上で、日本経済の立ち位置を知ることはとても大切です。本連載では「スキマ時間に読める経済データ」をテーマに、役立つ情報を皆さんと共有していきます。第8回では、実質成長率に注目して日本と他国の比較を行っていきます。
今回は平均給与の実質成長についてご紹介します。これまでご紹介してきた通り、日本では労働者の給与が減少、停滞しています。
このようなお話をする場合、必ずご指摘いただくことが2点あります。
(1)日本は女性や高齢労働者が増えているので平均給与が減って当たり前。男性労働者では増えているはず
(2)他国はインフレが生じるため、物価上昇の影響も加味した実質成長率では日本と変わらないはず
まず(1)のご指摘に対しては、第6回でご紹介した男性労働者の世代別平均給与のデータを参照していただければと思います。実態としてはむしろ逆で、女性労働者は各世代で平均給与が上昇していますが、男性労働者の平均給与は各世代で減少してしまっています。特に40代男性では年間75万円もの減少が見られるほどです。
今回は(2)のご指摘について、統計データを基に確認していきましょう。その前に押さえておきたいのが、「実質成長」という言葉です。これはそもそも、どういった意味なのでしょうか? ここでは内閣府による定義をご紹介します(内閣府 国民経済計算より引用)。
名目値とは、実際に市場で取り引きされている価格に基づいて推計された値。実質値とは、ある年(参照年)からの物価の上昇・下落分を取り除いた値。名目値では、インフレ・デフレによる物価変動の影響を受けるため、経済成長率を見るときは、これらの要因を取り除いた実質値で見ることが多い。
経済指標の数値は通常、その都度のお金の価値で表現した「名目値」として集計されます。本稿でご紹介しているGDPや平均給与などの統計データも、断りの無い限りはこの名目値を採用しています。
ただ、物価は各国で異なる変動の仕方をします。基本的に日本以外の先進国は、物価が緩やかに上昇し続けている状態が多いですね。物価については、以前の連載の記事をぜひご参照ください。
いくら名目値で給与が上がっていても、それを上回るペースで物価が上がっているようでは、その国の労働者が豊かになっているとはいえません。同じお給料で買える商品の数量は減っているのですから、「実質的」にはむしろ貧しくなっていることになります。このように、実質成長というのは、物価の上昇具合に対してどれだけ経済が成長しているかを見る上で重要です。
実質成長率は下記のような計算式で表されます。
例えば、2000年から2010年の10年間で、平均給与が500万円から600万円に成長していたとします。物価は同期間で1.3倍に上昇していたとしましょう。この時、平均給与の名目成長率は、600÷500=1.2倍として表されます。一方で平均給与の実質成長率は、1.2÷1.3=0.92倍となります。
平均給与は名目値では1.2倍になっていますが、物価がそれ以上に上昇しているので、お給料で買える量は目減りしてしまいますね。それが実質成長率0.92、つまり1未満の数値が持つ意味です。名目成長率では2割上昇していても、実質成長率は1割近く下がっています。この場合は、その国の労働者は豊かになるどころか貧しくなっていると評価できます。
日本は平均給与の名目値も物価も停滞が続いていますので、実質成長率も停滞している事が予測されます。一方で、他の先進国は平均給与も物価も共に上昇している状況になっています。具体的に、実質成長率はどうなっているでしょうか?
まずは、平均給与の名目成長率で日本と他国を国際比較してみましょう。図1がOECD各国の平均給与について、1991年を基準(=1.0)とした場合の名目成長率の比較です。
日本は1991年の水準に対してほぼ横ばいで推移していて、名目成長率は1.0です。仮に1997年を基準としていれば目減りしている状況ですらあります。
これに対して他国の名目成長率は基本的に右肩上がりで上昇していて、フランス、イタリア、ドイツなどは2.0倍前後、英国や米国は2.5倍以上です。日本は名目値で停滞が続いている一方で、他国は上昇傾向が続いているということをまずは認識しておく必要がありますね。
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