「世界で勝ち抜く意識が足りず」Rapidus東氏が語る国内半導体の過去と未来モノづくり最前線レポート(2/2 ページ)

» 2023年02月15日 08時00分 公開
[池谷翼MONOist]
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過去の国産半導体プロジェクトと何が違うのか

 東氏はRapidus設立の経緯について、「IBMからビッグデータ解析や量子コンピュータに使用するロジック半導体を日本で製造しないかという話が飛び込んできた。私としても何年かけてもやりたいと感じたが、既存の半導体メーカーは現状の仕事で手いっぱいだから、新会社を作らなければならない。そこで政府や経産省にも相談して、今回の枠組みができた」と説明した。これに米中間の政治的緊張が高まる中で、日米連携による半導体調達力の強化という狙いも加わり、Rapidus設立につながったという。

 加藤氏は1990年代の国内半導体産業の衰退を受けて立ち上がった「日の丸半導体」のプロジェクトに触れて、「当時も政府やさまざまな日本企業によるバックアップが存在したが、今回のRapidusによるプロジェクトはこれとどのように違うのか」と質問した。

 東氏は大きく分けて2つの相違点を取り上げた。1つは、今回のプロジェクトが米国など国際社会との連携や協力の枠組みの中で考えられている点、もう1つはサムスン(Samsung Electronics)やTSMCなどと競合しない、専門化した分野に絞って独自の戦略を展開することを目指している点だ。後者については、「今回、出資してもらった企業にもそうしたやり方が良いという思いがある。半導体市場全体で大きなシェアを取ろうとは考えていない。フォロワーにはならない、新しいやり方で日本にも世界にも貢献していく」(東氏)とも述べた。

 一方で、製造した半導体の出口はどう考えているのか。量子コンピュータや自動運転といった技術が想定より社会に普及しない可能性もある、と加藤氏は指摘した。これに東氏は「先端ロジック半導体の研究開発組織である『技術研究組合最先端半導体技術センター(LSTC)』に、新産業やアプリケーションを考える組織を設置する。産学連携で有名な米国のスタンフォード大学には、技術の最終製品となるアプリケーションとそれを支えるインフラを作るエンジニアや研究者が、毎週のようにワークショップを行う環境がある。日本にも同じような仕組みを作り、1分野に固執せずに見ていくことが大事だ」と答えた。

 加藤氏は半導体の製造装置や原材料などのサプライチェーンをどのように構築するかも尋ねた。「キャディが手掛ける金属加工などの領域では、材料も製造装置も多くが日本製だ。それが良い影響を及ぼす側面もあるが、ある意味で中期的には日本の成長を妨げる側面もあると感じてはいる。半導体のサプライチェーンについてはどう考えていくのか」(加藤氏)。

 東氏は同じ国の企業から調達する自前主義は、指示出しやコミュニケーションの速度といった点で利点はあるとしつつ、産業の全体的なレベルが一定程度で止まってしまうデメリットもあると語る。「身内主義」(東氏)をなくすとともに、水平分業を進めることが世界に貢献し得る企業に成長する上では大事だとした。

トップとの壁をなくす

 製造業においてグローバルイニシアチブを取ることの重要性は理解しつつも、現状を変える一歩を踏み出せずに悩んでいる人も少なくないだろう。最後にこうした人へのメッセージを求められた東氏は「社内の壁を破ってトップの人とよく話して、『飲みましょうよ』などと言って壁をなくし、互いに理解し合うことが結構重要ではないか。それで生意気だと怒られることはないと思う。こうした意味で、自分の力でできることは結構あるのではないか」と回答した。

 加藤氏は「何かを変える意見に対して社長や経営層はポジティブでも、中間管理職などの人が『これはやめておこう』と押さえてしまうこともある」と応じ、これに対して東氏が「新しいことをやると失敗は必ず起きる。それを許していける会社がいい」と返した。

インテルと同じ路線にはならないのか

 Q&Aセッションの中では、「IBMはインテルとも先端半導体を共同開発する方針だ。ナノシートを使って2nm以細の開発を目指すと考えると、RapidusもIBMとナノシートをベースとした技術を使う場合、インテルと同じ路線を取ることになるのではないか」という質問が寄せられた。これに対して東氏は、「同じような技術を使うとしても、アプリケーションの出し方などで、さまざまな形でお互いに補完関係を持つことは可能だろう。こちらの出方次第で脅威にもなるし、一緒に取り組むことも可能だと思っている」と語った。

 また、「日本企業のモノづくりの技術力や人材は高いが、(半導体分野では)アジアなど海外勢の後陣を拝している現状がある。原因は何だと思うか」という質問には、「これまでの日本での教育が冒険して新しいものを生み出すというより、何かに『追い付け、追い越せ』という発想の教育が多かった。そのため、最先端分野で差がついてしまうというのがあるのではないか」と回答した。

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