「アップサイクル」に求められるもの、そして「リープサイクル」が照らす未来環デザインとリープサイクル(7)(3/4 ページ)

» 2023年01月30日 09時00分 公開

「リープサイクル」とは何か

 いずれの戦略をとるにせよ、これからのアップサイクルに求められることは、「その瞬間に価値を高める」だけで終わらせることなく、さらに「アップサイクルした製品の価値が再び落ちてきた将来に、どうすればよいか」までをあらかじめ想像し、構想に含め、その備えまでをデザインに埋め込んでおくことであろう。

 ここから発展させれば、例えば、こんな未来予測もできるだろう。現在既に、アップサイクル品の価値は、それがどういう廃棄物を活用して作られたかという痕跡(=ストーリー性)に宿ることが多い。そのため、素材や産地などの情報をタグに記し、製品に添えているケースは既に一般化している。しかし、いずれ未来のどこかからは、そのタグに「その製品を廃棄するとなったときには、どういう処理方法をとるのが最適なのか」の指示が書き込まれるようになるのではないだろうか。筆者は、その未来はそう遠くないうちに実現すると考えている。

 「アップサイクルしたものが、またいずれ価値が減衰して落ちてきた際にも、再び社会で生かせるように考慮されている」――。こうした、1つ先、2つ先の未来までを見据えたアップサイクルの考え方が、筆者の提唱する「リープサイクル」という新たなコンセプトの第一歩である。しかし、このコンセプトにはまだ先がある。

筆者が提唱する「リープサイクル」の基本ダイヤグラム 図5 筆者が提唱する「リープサイクル」の基本ダイヤグラム[クリックで拡大]

「過去から残ってきたもの」と「未来に向けて残り得るもの」

 筆者が提唱するリープサイクルは、「価値が減衰して落ちてきた際のことをあらかじめ見越した工夫を仕掛けておくこと」を前提とする“発展的なアップサイクル”のことを指すが、それが担保できていれば、なるべく「価値が長く持続する、長寿命なもの」へカタチを変えることが理想である。結局、「長く愛されて使われる」ことが、最も地球環境にとっても人間社会にとっても有効だからである。

 そして、現在のアップサイクルが、エシカル消費やDIYを通じて、どちらかといえばファッションや家具など、個人が所有するアイテムへと展開していくならば、リープサイクルは逆に、個人ではなく、街で公共的に使用する「コモンズ」の領域へと展開させていきたいと考えている。それは次のような理由による。

 「長く使われるもの」の戦略を考える場合、個人が自分の所有物をどれだけ長く使うかは、人によって多様性があり、誰にとっても予想できない人生のイベントなどにも左右されるため、結局のところ確定することは非常に難しい。生活用品であれば、常に「新製品」が登場し、買い替えの圧も受けることになる(技術革新の激しい工業製品ではなく、衣食住などの生活のエッセンシャルな製品にアップサイクルが馴染むのはこの理由もある)。製品を作る企業と、製品を使う個人との間のエンゲージメントや、マーケットなど、多様な影響の下で進んでいくことになる。

 一方、自治体や公共的なアイテムは、個人の所有物とは違う時間軸の中に存在しているように感じられることが多い。筆者は、生まれ育った故郷に帰ったときにいつも驚くことがある。それは、家や店舗はほぼ全て建て替わり、街の風景は大きく変わっているものの、公園(の遊具やベンチ)や彫刻作品、藤棚などのコモンなアイテムは、子供のころのまま何も変わらず何十年間も残っているという事実を目にするからだ。

 こうした「街に過去から長く残っているもの」は、運用や管理の方法までも含め、事実、長く使われて、残ってきたものたちである。だとすれば、今この時代にあらゆる資源化手法を使って廃棄物を加工し、「未来へ向けてなるべく長く残したい」と思うのであれば、過去から長く残ってきたものと同種の「コモンなアイテム」を積極的に対象とすることに可能性があるのではないだろうか。

 それは、かつてスチュワート・ブランド(Stewart Brand)が描いた「ペースレイヤリング」と呼ばれる、社会が変化する速度の違いを層状に描いたダイヤグラムにおいて、上層の「FASHION」「COMMERCE」領域から、下層の「INFRASTRUCTURE」「GOVERNANCE」領域へ、資源の使い道を移行させていくことを意味する。すなわち、「速いものの層(フロー)」から「遅いものの層(ストック)」へとスローダウンさせるのである。

ペースレイヤリング 図6 ペースレイヤリング。世界や社会の物事が変容する速度には違いがあり、それぞれの層の間に断層が生じることを表している[クリックで拡大] 出所:スチュワート・ブランドの『The Clock of the Long Now(1999)』より

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