連載第7回では「アップサイクル」の在り方を見直し、真に求められる方向性を示しつつ、さらにその先の未来を見据えたアプローチである「リープサイクル」の考え方について詳しく紹介する。
前回の最後で述べた、都市を対象とする「技術的サイクル」のシステミックデザインでは、最終的に自然の生態系に返す「生物的サイクル」のシステミックデザインとは対照的に、モノや資源を、カタチを変えながらでも未来に向けて使い続ける必要がある。
2016年、カナダのCIRAIGは「Circular Economy:A Critical Literature Review of Concepts(2016)」というレポートの中で4つの戦略を発表している。それは「なるべく小さな循環(内側のループ)を使うこと」「サイクルを回しながら次第に長寿命なものにカタチを変えていくこと」「産業を横断してカスケード利用していくこと」「分解/分離しやすく設計すること」の4つである。これは、前回紹介したバタフライダイヤグラムの一部を抜き出しながら、さらに方策を詳細化したものと捉えられる。
さて、こうした戦略を実際の製品に当てはめて実行に移すときに重要となる考え方に「アップサイクル」がある。アップサイクルという用語の始まりは、ソーントン・ケイ(Thornton Kay)による「『SalvoNEWS』No.99(1994年10月11日)」の記事であるとされているが、現在では“廃棄物や不要な製品を別の用途に作り替え、新たな価値を与えるプロセス”という意味で広く使われるようになった。
「リサイクル」は、製品をいったん材料にまで戻してから再生するが、アップサイクルは必ずしもそうではない。製品を分解したり、洗浄したりはするが、完全に材料に戻す前の途中段階から再利用を始めることが多く、それが「以前の使われ方」の痕跡となって次の製品に残ることにつながりやすい。とりわけ、ファッションや家具の領域では、エシカル消費やサステナブル消費の分かりやすいアプローチとなっており、アップサイクル製品の事例が増えている。
例えば、スイスのブランド「FREITAG(フライターグ)」は、トラックの幌布や自動車のシートベルト、自転車のタイヤチューブなどを用いたバッグを販売している。また、NIKE(ナイキ)は、工場に落ちている糸くずや消費者の廃棄物から作った「Space Hippie(スペースヒッピー)」というシューズを販売している。「過去の痕跡」は、あせたジーンズや古民家のように、「味わい」という価値に転化する。
しかし、ここで一度立ち止まって考えてみたいのだが、これらのアップサイクル品が将来的に捨てられることはないのだろうか?
そもそも、アップサイクル品の元となる廃棄寸前の製品も、それが最初の「新品」だったときには価値が高かったはずだ。時間の経過とともに価値が減衰し、使用されなくなり、廃棄される状態に至る。そこで廃棄されたものをアップサイクルによって別の製品として社会に戻していこうとするならば、また時の流れの中で、価値がゆっくりと減衰し、結局は「廃棄される」という同じ運命をたどってしまうのではないだろうか。そう考えた場合、「アップサイクルされた」瞬間が価値の最大値であることは、決してポジティブ一辺倒ではなく、危険なことと判断しなければならない場合もあるのではないか。
こうしたことまで考慮に入れれば、真の意味のアップサイクルは、「その瞬間の価値を上げる」だけでなく、さらに“未来を見据えた工夫を加えておくこと”が欠かせない。製品が捨てられる、ということを次に繰り返さないように、避けられるようにしておきたいならば、アプローチは大きく2つある。
1つは、とにかく長く使用できるようにすることである。以前よりも「長寿命化」なものにアップサイクルする際にも、さらにそこに修理や修繕のサービスやマニュアルなどを付随させる。ファッションや家具など、人の暮らしに近いプロダクトには、これが適する場合が多いだろう。「リビルディングセンター」「リペアカフェ」などの拠点も増えつつあり、DIYとの融合がこうした文化を支える。
もう1つのアプローチはやや入り組んでいるが、次のようなものとなる。それは「あらゆるものはいずれ捨てられてしまう」という事実をいったん受け入れ、だからこそアップサイクルを契機とし、「次にいつか捨てられるときには、再利用か再生利用しやすいように、積極的にカタチと状態を変えておく」という工夫を施すことだ。すなわち、アップサイクルの際に、少しコストをかけてでも「循環的利用」のトラックに乗せてしまうということである。
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