紛争が顕在化している場合には、当該紛争の見通しや当該紛争に敗れた場合に現実化するリスクの内容や程度を検討すべきです。ここではまず、自社が権利行使する側の場合の留意点について検討します。
権利行使をする場合、以下で述べるようにさまざまな態様がありえますが、いずれにせよ、以下の各点を検討する必要があります。
(A)自社の主張に対しいかなる反論がなされうるか※2
(B)主張への反論以外にも、自社が相手方から攻められるポイントがあるか
※2:特許事件において、予想される争点について裁判例を調査する際は、高石秀樹『論点別特許裁判例事典(第二版)』(経済産業調査会、2018年)が参考になる。
(A)との関係では、例えば特許権でいえば、問題となる行為が特許権の権利範囲に属する行為ではないという反論(非充足論)の他、そもそも当該特許が無効である旨の反論などがありえます。無効論は、権利自体の存続に関わり得るところです※3※4。非充足論の場合であっても、特に裁判で非充足の判断が出された場合には、裁判所により非充足と判断されたことが公になり、当該特許権の有する第三者に対するけん制力に影響が出ることも考慮する必要があります。
※3:侵害訴訟において無効の抗弁が認められた場合であっても、当該事件以外、また、第三者との関係においても、当該特許が無効であることが直ちに確認されるわけではないことには留意されたい(cf:特許庁に対する無効審判請求)。
※4:無効論の反論が予想される場合は、例えば特許権の場合には訂正により無効理由を解消できるか否か、無効理由を解消した上でもなお相手方のプロダクト/サービスが当該特許発明の構成要件を充足するか否かを検討する必要がある。
(B)との関係では、自社が権利行使した際に、他社より異なる点から攻められる可能性を考慮する必要があります。例えば、相手方が保有している特許権や商標権を侵害しているとしてカウンターとしての権利行使をなされる可能性は十分に留意する必要があります。
上記(A)とも関連しますが、仮に相手方が権利侵害していることについて疑義がなかったとしても、裁判になった場合にそれを立証できるか、という点は極めて重要な点です。そのため、収集可能な証拠についてはアクションを起こす前に集めておく必要があります。また、権利形成の時点から立証可能性を考慮して権利を作る必要があることはこれまでに述べてきた通りです。
訴訟提起した場合、プレスリリースを出す例も少なくありません。しかし、当該プレスリリースについて、不正競争防止法2条1項21号に定める虚偽事実の告知流布行為の該当性が争われる場合もあるため、表現には細心の注意を払う必要があります※5。
※5:例えば、知財高判平成28年2月9日(平成27年(ネ)第10109号)など。
また、訴訟提起後、和解にて訴訟が終結する場合もあります。ただ和解による終結後に出すプレスリリースについても、不正競争防止法2条1項21号に定める虚偽事実の告知流布行為の該当性が争われた事案も存在しますので、和解後にプレスリリースを出す場合には、和解時に誰がどのタイミングでどのような内容のプレスリリースを出すかあらかじめ合意しておくことが望ましいでしょう※6。
※6:例えば、東京地判平15年9月30日判時1843号143頁【iOffice和解事件】など。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.