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» 2022年12月27日 08時00分 公開

スタートアップに潜む知財紛争リスクにご用心、M&A前に調査検討すべき項目スタートアップとオープンイノベーション〜契約成功の秘訣〜(17)(3/3 ページ)

[山本飛翔MONOist]
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ディフェンス側から見た知財紛争

 次に、ディフェンス時における留意点を紹介します。

 まず、警告事案において、他社から警告状を受け取った場合、まず確認すべきは、これまでスタートアップが出資を受けてきた際の投資契約などです。すなわち、通常の投資契約であれば、自社のプロダクト/サービスについて、他社より権利侵害の警告を受けることは、報告事項になっているはずです。

 従って、弁護士や弁理士と相談しつつ、警告状を受け取ったことを早めに投資家に説明すべきでしょう。その際には、単に受け取った事実のみではなく、可能な限り速やかに、その対応方針も合わせて説明すべきです(場合によっては弁護士、弁理士と共に説明を行うことも考えられます)。

 また、警告状を受け取った場合、まずは反論できるポイントがどこにあるか、検討する必要があります。例えば特許権の場合、非充足論で反論するポイントがあるのか、無効論で反論するポイントがあるのか、それとも相手方が侵害している自社の権利があるのかなど、検討する必要があります。特に、無効論については、準備に時間を要する場合が多いため、警告を受け取り次第直ちに検討を始めることが望ましいです。なお、以下に権利の種別ごとに、一般的にディフェンス側が検討すべき反論事項の概要を簡単に紹介します。

1.特許権侵害訴訟※7

(1)非充足論

文言侵害にならず、均等侵害も成立しないこと。間接侵害も成立しないこと。

(2)無効論

 1.新規性欠如

 2.進歩性欠如

 3.実施可能要件違反

 4.サポート要件違反※8

 5.明確性要件違反

 6.冒認出願

 7.共同出願義務違反

(3)消尽論

(4)先使用権の抗弁

(5)試験又は研究のための実施

(6)(侵害が認められる場合に)損害論における反論

(7)無効審判の請求及びその後の審決取消訴訟の提起

(8)相手方に対する知的財産権侵害を理由とする訴訟の提起

2.商標権侵害訴訟※9

(1)商標の類否の否認

(2)商品や役務の類否の否認

(3)商標的使用をしていない

(4)無効論

 1.識別力なし

 2.公序良俗違反

 3.周知商標と同一又は類似の商標を周知商標と同一または類似の商品・役務へ使用するもの

 4.先願商標と同一又は類似の商標を周知商標と同一または類似の商品・役務へ使用するもの

 5.他人の業務に係る商品、または役務と混同を生ずるおそれがある商標

(5)商標法26条に基づく商標権の効力制限

(6)先使用権

(7)商標権の濫用

(8)真正商品の並行輸入

(9)消尽論

(10)(侵害が認められる場合に)損害論における反論

(11)無効審判・不使用取消審判の請求及びその後の審決取消訴訟の提起

(12)相手方に対する知的財産権侵害を理由とする訴訟の提起

3.不正競争法関係訴訟※10

(1)各不正競争行為の該当性の否認

(2)不正競争防止法19条1項の列挙する適用除外事由への該当性

(3)相手方に対する知的財産権侵害を理由とする訴訟の提起

4.著作権侵害訴訟※11

(1)著作物性の否認

(2)各支分権の侵害要件の否認

(3)各種権利制限規定の適用

(4)相手方に対する知的財産権侵害を理由とする訴訟の提起

5.意匠権侵害訴訟

(1)類否の否認

(2)無効論

 1.新規性なし

 2.創作非容易性なし

 3.公序良俗違反

 4.他人の業務に関わる物品、建築又は画像と混同を生ずるおそれがある意匠

 5.物品の機能を確保するために不可欠な形状若しくは建築物の用途にとって不可欠な形状のみからなる意匠又は画像の用途にとって不可欠な表示のみからなる意匠

(3)先使用権

(4)先出願の通常実施権

(5)無効審判の請求及びその後の審決取消訴訟の提起

(6)相手方に対する知的財産権侵害を理由とする訴訟の提起


※7、9、10、11:それぞれの詳細については、高(正確な「高」は、口の部分が目になっているはしご高)部眞規子(編)『特許訴訟の実務(第2版)』(商事法務、2017年)や同(編)『著作権・商標・不競法関係訴訟の実務(第2版)』(商事法務、2018年)、同『実務詳説商標関係訴訟』(きんざい、2015年)、同『実務詳説特許関係訴訟(第3版)』(きんざい、2016年)、『実務詳説著作権訴訟(第2版)』(きんざい、2019年)などを参照されたい。

※8:非充足論と無効論の関係は非常に重要である。すなわち、仮に充足論におけるクレーム解釈において原告の主張が採用されるのであれば、原告の主張するクレーム解釈を前提とすれば無効である、などといった形である。この観点からは、非充足論とサポート要件違反の関係は特に重要であろう。

 相手方との交渉状況によっては、相手が侵害を主張している権利(やその他の権利)について、特許庁に対して無効審判請求※12を行うことが考えられます。無効審判においては、通常の訴訟のように相手方との間で書面にて主張を交わし、その後必要に応じて口頭審理期日が開催され、審理を尽くした後、特許庁に当該権利に無効理由があるか否かを判断してもらうこととなります。無効審判で無効理由がある旨の審決がなされ、当該審決が確定した時には、原則として、当該権利は初めから存在しなかったこととなります※13

※12:商標権の場合、不使用取消審判請求を行うことも考えられる。

※13:特許権の場合について、特許法125条本文。ただし、無効の理由が、特許後に発生した特許法123条1項7号に定める無効原因(特許権の享有主体違反、条約違反)に基づく場合には、特許権は、同号に該当するに至った時から存在しなかったものと見なされる(特許法125条ただし書)。

 なお、無効審判の平均審理期間は、権利の種類によって異なるものの、2018年度でおおむね10カ月程度となっています。このように、相当程度の審理期間を要するため、侵害訴訟を提起された場合のカウンターとして無効審判請求を行う場合には、早期に手続をとる必要があります(仮に無効審判で自社に有利な判断が出ても、その時点では侵害訴訟の審理が終結し、又は終結間近で有効に活用しがたい、といった事態に陥りかねません)。

 無効審判において出された審決に不服がある場合は、知財高裁に控訴することとなります。知財高裁における平均審理期間は、平成30年度で9.3カ月となっています。こちらも、上述のように、侵害訴訟のカウンターとして活用する場合には、遅れないように気を付けたいところです。なお、侵害訴訟の控訴審と侵害訴訟で権利侵害を主張している権利についての審決取消訴訟が同時期に係属する場合、知財高裁の同じ部に係属し、事件を併合して審理することが多いです(このことにより、統一的な判断が担保されやすくなります)。

 相手方から訴訟を提起された場合には、当該訴訟における相手方の主張に反論していく「相手方の設定した土俵」での戦いはもちろんですが、これと同時に自社から積極的に相手方に反訴や別訴訟を提起し、対抗するという「自社で設定した土俵」での戦いを行う必要があります。

 自社の権利を相手方が侵害していると考えられる場合には、当該権利侵害を理由とした侵害訴訟を起こすことも考えられます。また、上述のように、相手方が訴訟提起時に出した場合のプレスリリースが自社との関係で虚偽事実の告知流布行為にあたる可能性もあるため、その場合には虚偽事実の告知流布行為にあたることを理由に当該行為の差止や損害賠償請求を行うことが考えられます。

終わりに

 今回は、事業会社によるスタートアップのM&Aに際しての知財DDに関する留意点のうち、特に第三者からの権利侵害警告に関する問題点をご紹介しました。次回は、事業会社によるスタートアップのM&Aの留意点のうち、法務や労務DDにおける留意点をご紹介いたします。

 ご質問やご意見などあれば、下記欄に記載したTwitterFacebookのいずれかよりお気軽にご連絡ください。また、本連載の理解を助ける書籍として、拙著『オープンイノベーションの知財・法務』、スタートアップの皆さまは、拙著『スタートアップの知財戦略』もご活用ください。

⇒連載「スタートアップとオープンイノベーション〜契約成功の秘訣〜」バックナンバー

筆者プロフィール

山本 飛翔(やまもと つばさ)

【略歴】

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2014年 東京大学大学院法学政治学研究科法曹養成専攻修了
2016年 中村合同特許法律事務所入所
2019年 特許庁・経済産業省「オープンイノベーションを促進するための支援人材育成及び契約ガイドラインに関する調査研究」WG(2020年より事務局筆頭弁護士)(現任)/神奈川県アクセラレーションプログラム「KSAP」メンター(現任)
2020年 「スタートアップの知財戦略」出版(単著)/特許庁主催「第1回IP BASE AWARD」知財専門家部門奨励賞受賞

/経済産業省「大学と研究開発型ベンチャーの連携促進のための手引き」アドバイザー/スタートアップ支援協会顧問就任(現任)/愛知県オープンイノベーションアクセラレーションプログラム講師
2021年 ストックマーク株式会社社外監査役就任(現任)

【主な著書・論文】

「スタートアップ企業との協業における契約交渉」(レクシスネクシス・ジャパン、2018年)
『スタートアップの知財戦略』(単著)(勁草書房、2020年)
「オープンイノベーション契約の実務ポイント(前・後編)」(中央経済社、2020年)
「公取委・経産省公表の『指針』を踏まえたスタートアップとの事業連携における各種契約上の留意事項」(中央経済社、2021年)
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