CubeSatとは、形状や大きさ、重量などを制限して小型化した人工衛星の規格で、低コストかつ短期間に開発できるのが特徴だ。約10cm角の立方体で、質量は約1〜1.33kgとし、この1つのキューブを「1U」と呼ぶ。教育、科学、技術検証、商業ミッションなど、さまざまなアイデアや提案に貢献できる可能性があるため、ここ10年ほどの間でCubeSatの開発が盛んに行われているという。また、多機能で高精度なミッションを1機(点)で実現する大型衛星に対して、CubeSatのような小型衛星は単機能ではあるが、「複数の小型衛星を連携させた衛星コンステレーションの構築によって“面”で、これまで実現できなかったミッションをこなせる可能性があることからも注目を集めている」と山崎氏は説明する。
山崎研究室ではこのCubeSatに、電離圏観測による確率的短期地震予測を組み合わせ、Open design×Technology Transfer×Dense monitoring network by constellationの3つのキーワードで、6UのCubeSatで構成されるPreludeの研究開発に取り組んでいる。Preludeは、地震発生に先行する電離圏での先行現象(電子密度変動現象)を捉える観測衛星で、地震の発生を数時間前に予測して減災につなげることを目的とする。
人工衛星のシステムは大規模かつ複雑であり、ハードウェア、ソフトウェア、人、データ、サービスなどさまざまな要素(コンポーネント)で構成され、それらの要素が連携することでミッションを達成できる。CubeSatの開発では、開発フェーズや見たいものに合わせて、さまざまな設計開発フレームワークを組み合わせて使っており、それらの情報をデジタルでつなぐ“デジタルコラボレーション”の実現が不可欠だという。そして、その際に必要になるのが「局所最適と全体最適の両方の視点を持つことだ」と山崎氏は述べ、CubeSatシステム内のコンポーネント、サブシステム、インタフェースの設計情報をデジタルでつなげ、局所的および全体的な最適化を促進できる可能性のあるFusion Teamのデジタルコラボレーション機能が有用だとする。
実際、Fusion 360による構造設計、電子回路設計、組み立て&解析の3つのプロセスをFusion Teamでつなぐことで、設計情報の共有と開発のシームレスなコミュニケーション/コラボレーションの促進が図れているという。また、Fusion 360だけでは完結しないより複雑な解析などを行う際は、クラウドストレージを介して、Fusion 360で設計した3Dデータを外部のツールに渡したり、チャットツールなどをうまく組み合わせて情報共有を図ったりして衛星開発に役立てている。
プロジェクトマネジメントと構造設計を担当する日本大学大学院 理工学研究科 航空宇宙工学専攻 山崎研究室 修士2年の柳原大輔氏は、Fusion 360を中心としたワンプラットフォームによる設計開発環境の実現について、「実際に設計する側としても非常に使いやすくなった」と評価する。
6UのCubeSatで構成されるPreludeの開発においては、多方面の要求を満たしながら、空間的な制約内に収まるように構造設計、回路設計、組み立て&解析を行っていく必要がある。これら3つのプロセスは、3D CAD/CAM/CAE/PCB統合ソリューションであるFusion 360で作業を進めていき、メンバー間における設計データの共有やシームレスな連携をFusion Teamのデジタルコラボレーション機能が支える。
内部コンポーネントや衛星筐体の構造設計においては、2Dによるスケッチ/3Dモデリングを切り替えながら設計を進め、さらにクラウドを介して構造解析を実施し、設計の妥当性を素早く評価。電子回路設計では回路図および回路パターンの設計を行い、設計した基板を3Dモデル化して、構造設計した内部コンポーネントや筐体と統合し、干渉やケーブルの取り回し、組み立て性などの検証に役立てる。「これらの設計作業におけるコンポーネントやアセンブリの設計データは、全てFusion Teamによってクラウド上でリンクしているため、複数のメンバーで、同時にコンポーネントの設計や統合設計を進めるといったことが可能になった」(柳原氏)。
また、Fusion 360で設計したデータを基に、3Dプリンタでモックアップを出力したり、プリント基板を起こして動作を確認したり、2D図面に落として金属加工に回したり、外部のソフトで解析を実施したりなど、「さまざまなアウトプットにもつなげられた」と柳原氏は述べる。
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