超小型衛星の開発を単一プラットフォームで、ジェネレーティブデザインや金属3Dプリンタも活用デジタルモノづくり(1/5 ページ)

オートデスクは、同社ソリューションやソディックの金属3Dプリンタを活用したモノづくりの先進事例として、日本大学理工学部 航空宇宙工学科が研究開発を進めている超小型衛星「CubeSat」および小型衛星トレーニングキット「HEPTA-Sat」の取り組みを紹介するプレスツアーを開催した。

» 2022年11月08日 09時00分 公開
[八木沢篤MONOist]

 オートデスクは2022年10月31日、同社ソリューションやソディックの金属3Dプリンタを活用したモノづくりの支援する活動に注力している先進事例として、日本大学理工学部 航空宇宙工学科が研究開発を進めている超小型衛星「CubeSat」および小型衛星トレーニングキット「HEPTA-Sat」の取り組みを紹介するプレスツアーを開催した。

 現在、オートデスクは「Autodesk it.〜オートデスクで未来を創る〜」というブランドメッセージを掲げ、同社のソリューションやテクノロジー、コミュニティーを通じて、サステナブルでレジリエントな社会を築くために、世界中のイノベーターのデザインやモノづくりを支援している。

 今回のプレスツアーでは、超小型衛星の研究開発などを進めている日本大学理工学部 航空宇宙工学科において、オートデスクのクラウドベースの3D CAD/CAM/CAE/PCB統合ソリューション「Fusion 360」をどのように活用しているのか、その具体的なアプローチと、ジェネレーティブデザインで設計した人工衛星用パーツをソディックの金属3Dプリンタで実際に造形した研究開発の取り組みについて、日本大学理工学部 船橋キャンパス(千葉県船橋市)およびソディック 本社/技術・研修センター(神奈川県横浜市)でそれぞれ説明が行われた。

“モノづくりの実践”に重きを置く日本大学理工学部

 日本大学理工学部 船橋キャンパスには、5000人ほどの学生が在籍しており、敷地内には13もの実験や研究のための施設が立ち並ぶ。また、工作実習室や航空工学実験室、宇宙機誘導制御実験室などを完備する「テクノプレース15」と呼ばれる総合実験施設や、小型飛行機や人力飛行機の滑走試験などが可能な幅30m、全長618mの交通総合試験路(滑走路)も備えている。

総合実験施設「テクノプレース15」幅30m、全長618mの交通総合試験路 (左)総合実験施設「テクノプレース15」/(右)幅30m、全長618mの交通総合試験路[クリックで拡大]

 プレスツアーの冒頭であいさつした日本大学理工学部 学部長 教授 工学博士の青木義男氏は「とにかく体験、実践的な研究、教育を重視している」と述べ、1年生から金属加工の実習を行うなど、モノづくりの実践に力を入れている点を強調。また、同じく1年生の段階でFusion 360を用いた授業を取り入れるとともに、手描きによる製図の授業も併せて行っており、未来の人材育成に注力した教育方針が「(学生を採用する)企業側からも大変好評だ」(青木氏)という。

日本大学理工学部 学部長 教授 工学博士の青木義男氏 日本大学理工学部 学部長 教授 工学博士の青木義男氏

 また、学生たちに対して「未知未踏への挑戦」というテーマの下、新しいことへ挑戦することの重要性を説き、日本大学理工学部ではさまざまな成果や実績を上げている。その一例といえるのが、ジェネレーティブデザインを活用したモノづくりの挑戦だ。日本大学理工学部では、宇宙エレベーターの精密動作の実現や、アーチェリーのライザー(ハンドル部分)の軽量化、学生フォーミュラのベルクランクの強度アップと軽量化の実現などにジェネレーティブデザインを適用した実績があり、オートデスクをはじめとする民間企業との産学連携にも力を入れている。

 そして、今回のプレスツアーの主題である日本大学理工学部 航空宇宙工学科 准教授 工学博士の山崎政彦氏()の研究室で取り組んでいる超小型衛星の研究開発においてもジェネレーティブデザインの適用を進めている。

※山崎政彦氏の「崎」は、正しくは“立に可”(たつさき)となる。

超小型衛星の研究開発、そして衛星教育にも尽力

 山崎氏は、小型宇宙機の開発/利用/教育や宇宙機システムの工学を研究テーマとして取り組んでおり、特に最近では、電離圏の変動現象を観測するための超小型衛星(地震先行現象検知実証衛星「Prelude」)の開発の他、小型衛星のシステムをどうやってエンジニアリングしていくのか、その手法の研究や教育への展開にも力を入れているという。また、大学宇宙工学コンソーシアム(UNISEC:University Space Engineering Consortium)の理事を務め、超小型衛星を利用した実践的な宇宙工学教育の実現および普及にも尽力している。

日本大学理工学部 航空宇宙工学科 准教授 工学博士の山崎政彦氏 日本大学理工学部 航空宇宙工学科 准教授 工学博士の山崎政彦氏

 超小型衛星に関する研究開発や教育に注力する山崎氏は「宇宙を題材に、超小型衛星や超小型衛星を使った専門知識を横断的に身に付けられる教育の場をデザインすることを目指している」と述べ、その一環として現在取り組んでいるFusion 360を活用した“単一プラットフォームで実現するCubeSat(キューブサット)開発”について紹介。「この取り組みを通じて、設計開発における新しいデジタルコラボレーションの形を探ったり、既存の技術にAI(人工知能)を融合させることで無限の可能性を探ったり、さらにそれらを活用して宇宙/衛星開発産業にもっとさまざまな人が参画できる方法を探ったりといったことにつなげていきたい」と山崎氏は述べる。

 具体的には、(1)Fusion 360やクラウド上のワークスペースでFusion 360の設計データを管理して複数メンバーによる共同作業を支援する「Fusion Team」を用いた電離圏観測衛星(Prelude)の開発、(2)ジェネレーティブデザインを用いた人工衛星の構造設計、(3)“Fusion 360も”使った超小型衛星工学の教育という3つのプロジェクトを立ち上げ、学生らとともに取り組んでいる。

単一プラットフォームで実現するCubeSat開発 単一プラットフォームで実現するCubeSat開発[クリックで拡大] 出所:日本大学理工学部 航空宇宙工学科
「Fusion 360」を導入し、電離圏観測衛星(Prelude)の設計開発、ジェネレーティブデザインの活用、超小型衛星工学の教育に取り組んでいる 「Fusion 360」を導入し、電離圏観測衛星(Prelude)の設計開発、ジェネレーティブデザインの活用、超小型衛星工学の教育に取り組んでいる[クリックで拡大] 出所:日本大学理工学部 航空宇宙工学科
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