日本精工は工作機械のボールねじ送り系の状態を安定化させる技術「NSK Feed Drive Adjuster(NSKフィードドライブアジャスター)」を開発したと発表した。同技術は「第31回日本国際工作機械見本市(JIMTOF2022)」(2022年11月8〜13日、東京ビッグサイト)に参考出展する。
日本精工は2022年11月1日、工作機械のボールねじ送り系の状態を安定化させる技術「NSK Feed Drive Adjuster(NSKフィードドライブアジャスター)」を開発したと発表した。同技術は「第31回日本国際工作機械見本市(JIMTOF2022)」(同年11月8〜13日、東京ビッグサイト)に参考出展する。
ボールねじを使ったマシニングセンタなどの工作機械は、長時間稼働を続けるとボールねじのナットが発熱し、その熱がねじ軸に伝わることでねじ軸にμm単位の伸びが生じることがある。
通常、ねじ軸の伸びが著しい場合には、送り系の異常や故障を防ぐために、ねじ軸を支持している機構の片側で軸方向の変位を逃すことで対処している。ただ、それでは支持剛性が低下してモーターは軸方向の荷重を受けられなくなり、工作機械の加工の精度や品質に影響が出る。
日本精工は今回、独自の剛性維持および動特性安定化技術により、温度上昇によってねじ軸が伸びて起こる機能の変化を最小限に留める技術の開発に成功した。
メカニズムの詳細は明かしていないが、この技術を反映したNSKフィードドライブアジャスターを軸端のサポート軸受との間に取り付けることで、ねじ軸が伸びても筐体が追随して一緒になった状態で軸受が移動する。送り系の剛性の変化はほとんどなく、安定した加工を続けることができる。
評価試験では、ねじ軸の伸びが発生しても、反モーター側のサポート軸受に働く軸方向荷重はほとんど変動しなかったという。
NSKフィードドライブアジャスターは既存機械に後付けできる仕様になっており、特別な動力も要しない。専門的な知識がなくても、高機能なボールねじ送り系支持部の設計が可能になる。また、加工状態の調整などが生じず、熟練者の技能に依存する必要がなくなる他、これまで行ってきた暖機運転が要らなくなるため消費電力を低減でき、コールドスタートによって生産性も高まる。粗削り加工から仕上げ加工に移る際に、ボールねじの冷却を待つこともなく、ロスタイム、環境負荷を削減する。
同日にオンラインで行われた記者会見で日本精工 産業機械事業本部 産業機械技術総合開発センター所長付 エグゼクティブチーフエンジニアの新井覚氏は「高度な自動化や環境負荷の低減を図った未来志向の工場に向けて、これまでにない技術を搭載した工作機械を標準設計していく時代に入っていく。極端にいえば、真夏で恒温室がなくても金型の高精度な仕上げ加工できる、という世界が実現できるかもしれない。誰も見たことがない世界をこの技術で実現したい」と語る。将来的には、ボールねじの送り系以外の領域への展開も検討しているという。
JIMTOF2022では参考出展となるが、NSKフィードドライブアジャスターを付けて工作機械が稼働している状態を披露する。同社 産業機械事業本部 副本部長 兼 産業機械技術総合センター所長 執行役常務の武村浩道氏は「製品化のめどは立っていないがすぐにでもほしいという声が多ければ、その声に応えるべく大至急製品化につなげたい」と話している。
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