製造業が注目するIoTをつなぐ上で不可欠な技術になりつつあるのがモバイルネットワークだ。本連載はこのモバイルネットワークの領域で注目を集めている「マルチキャリアSIM」について解説する。第2回は、マルチキャリアSIMのより具体的なユースケースについて紹介し、その導入メリットを掘り下げる。
IoT(モノのインターネット)の拡大と進化を後押しするモバイルネットワーク市場の現状と展望を「マルチキャリアSIM」にフォーカスして解説する本連載の第1回では、マルチキャリアSIMの概要と目下の市場ニーズについて触れた。今回はより具体的なユースケースと導入メリットについて掘り下げてみたい。
前回、マルチキャリアSIMに対する目下の市場ニーズは「国内での利用における通信エリアカバレッジをできるだけ広げたい」「グローバルでモバイルネットワークの調達や管理・運用を一元化しつつ国内と海外で同等のセキュリティを担保したい」という2点に集約されることを説明した。そこで、国内でのユースケースとして、太陽光発電事業者が全国に設置した発電設備の発電量測定と監視のためにマルチキャリアSIMを採用する場合のメリットを考えてみよう。
太陽光発電パネルは敷地の確保のしやすさや発電効率の観点から山間部や地方の郊外に設置されることが多いが、モバイルネットワークの利用という観点では制約も多い。特定の通信キャリアが全国一律に山間部などでの通信に強いというわけではないからだ。
実際、太陽光発電事業者がシングルキャリアSIMを使って各地の太陽光発電所からデータを集約する場合、地域によっては強い電波をなかなかつかめないケースも少なくない。太陽光発電に適した土地を確保できたとしても、通信環境が十分に確保できなければ、発電設備の状態を適切に把握することが極めて難しくなる。どうしてもそこに設置したいとなれば、他の場所に設置している太陽光発電所とは異なる通信手段を個別に検討しなければならず、その前段で現地調査も必要になり、コストや手間、時間がかさんでいく。こうした課題は太陽光発電所のスケールアップが事業の成長に直結する太陽光発電事業者にとって、ビジネス上の機会損失につながるハードルになる。
その解決策として有効なのがマルチキャリアSIMである。例えば、NTTPCコミュニケーションズ(NTTPC)のインターネットモバイルサービス「InfoSphereモバイルマルチキャリアタイプ」およびVPN(仮想プライベートネットワーク)モバイルサービス「Master'sONEモバイル マルチキャリアタイプ」はNTTドコモとKDDIに接続可能だが、この両キャリアであれば国内のほぼ全域をカバーできる。全拠点からのデータ収集の仕組みを一元的に管理/運用できる体制を担保した上で太陽光発電パネル設置エリアのカバレッジも広げ、ビジネス上の制約を取り払うことが可能になるのだ。
また、シングルキャリアSIMと比べて通信が安定するというメリットも享受できる。シングルキャリアSIMの場合、利用する場所によっては、「モバイルネットワークを利用していても電波が不安定で通信がつながらなくなってしまう」という事象が発生することもあった。マルチキャリアSIMの場合は、デバイス側で電波強度が高いキャリアを自動的に選択しているので、通信トラブルの発生を大きく抑制できる。筆者が所属するNTTPCでも、マルチキャリアSIMの提供開始から、通信トラブルに関する問い合わせが劇的に少なくなった。
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