このような動きと並行して、オーストラリアでは、教育省/雇用・職場関係省(関連情報や貿易促進庁(Austrade)(関連情報、PDF)などを中心に、ゲーミフィケーションの産業振興と雇用創出に取り組んできた。最近は、メルボルン、シドニーなど、ゲーム開発産業が集積する都市を中心に、ゲーミフィケーションで培われた知見やノウハウのデジタルメンタルヘルス領域への適用に関連した研究が進んでいる。
例えば、メルボルンにあるビクトリア大学保健スポーツ研究所のバシレイオス・スタヴロポラス氏らの研究チームは2020年11月18日、オーストラリア研究会議(ARC)からの資金支援を受けて、デジタルフェノタイピングを利用したインターネットゲーム障害(IGD)に関する研究を実施する計画を発表している(関連情報)。この研究では、10代の若者500人と成人500人のゲーム行動を30カ月間追跡し、実生活と仮想ペルソナの間のパターンを検知するとしている。その後2021年4月1日、スタヴロポラス氏らの研究チームは、精神医学学術誌「BMC Psychiatry」で、「インターネットゲーム障害向け最適構造モデルを求めて」(関連情報)と題する論文を公開している。
また2022年3月28日には、ニューサウスウェールズ州のシドニー大学・脳とこころのセンター(BMC)のグレース・イェウン・リー氏らの研究チームが、環境・公衆衛生学術誌「International Journal of Environmental Research and Public Health」で、「若者のメンタルヘルス向け参加型システムモデリング(PSM):包括的なマルチスケールフレームワーク適用の評価研究」(関連情報)と題する論文を公開している。
同研究チームによると、若者のメンタルヘルス領域は、サービスの断片化、不十分なリソースの割り当てといった課題に一貫して直面しているという。システムのモデリングやシミュレーション、特に参加型アプローチは、リアルの世界に導入する前に、安全な仮想環境において代替戦略を検証することによって、限られたリソースでエビデンスに周知された意思決定をする際に役立つものだとしている。本論文では、若者のメンタルヘルス向けに先進的な意思決定支援機能を提供する際に、参加型システムモデリングの実現可能性や価値、インパクト、持続可能性を評価するための評価プロトコルを提示している。
さらに2022年8月17日には、ニューサウスウェールズ大学(UNSW)・保健科学部のローレンス・ハ氏らの研究チームが、国際医学雑誌Journal of Medical Internet Research(JMIR)に、「子どものがんサバイバー間の健康行動を支援するためのウェアラブル行動トラッカーによるデジタル教育への介入:予備的な実現可能性・受容性の研究」(関連情報と題する論文を掲載している。
子どものがんサバイバーの間では、健康行動不足によって心臓代謝合併症が悪化するリスクの増大が課題となっている。同大学の研究は、サバイバーを教育して運動に関与させることを目的とした「iBounce」プログラムの実現可能性や受容性を評価するとともに、同プログラム参加後のサバイバーの運動レベルと行動、エアロビクスフィットネス、健康に関連する生活の質(HRQoL)における変化を評価することを目的としている。
「iBounce」は、サバイバーシップにおける運動やフィットネスを支援することによって、がんを克服してきた子どもや思春期・若年成人(AYA)の患者向けに、特に設計されたデジタルヘルス教育プログラムであり、オーストラリア全域に渡る子どもの行動レベルの向上を可視化につなげることを目的としている(関連情報)。
オーストラリアの場合、3Dモデリング、インタラクティブモーショントラッキング、アニメーション、特殊効果、ストーリーテリングといったゲーミフィケーションのコア技術の発展に加えて、教育・トレーニング分野のEdTechスタートアップ企業が成長、横展開している点が強みとなっている。
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