知財業務に取り組む人員や体制の確認も大切です。業種にもよるものの、スタートアップでは知財専任の担当者が存在しない場合がほとんどです。このため、専任の担当者が存在しない、あるいは少ないことが直ちに不適切であると判断するべきではありません。ただ、以下の点などをチェックすることは大切です。
取得した権利の維持および管理を適切に行っているか
ここで、事業戦略の構築における知財の検討がなされているかという観点を挙げていますが、これについて補足させてください。
基本的に知財は事業戦略や全社戦略に活用できます。ただ、事業戦略や全社戦略はそもそも経営に密接にかかわるものですので、知財を活用する上で経営者を含めた事業部のメンバーの知見が必要になることは明らかです。他方、知財については各種知的財産法の理解や、特許庁における権利形成の手続きや、訴訟などの権利行使の場面、ライセンス交渉などの契約実務や交渉術に精通した人材も必要です。すなわち、経営と知財法務の知識、観点を双方兼ね備えた企業において、実効性のある知財戦略の構築が可能となります。全社戦略に関わることも踏まえれば、会社の全体の動きを把握するCIPO(知的財産最高責任者)やCLO(最高法務責任者)といった役員クラスの経営者層がこの適性を備えていることが最も理想的といえます。
もちろんこうした人材は、社内のメンバーに限らず外部の弁理士、弁護士などでも構いません。経験豊富な知財部員を擁する大企業とは異なり、スタートアップは内部にそうした人材がいないため、出願代理を行う者とは異なる弁護士をアドバイザーとして使う企業も最近では出てきています。ただし、こうした人材が事業戦略、開発戦略の構築時にディスカッションに加わる機会が確保されているかについても、留意しておく必要があります。
また、スタートアップが戦略的に知財活動を行えているかを判断する上では、特許化や秘匿化についてしっかりとした区分の基準が設けられているかという視点で見ることも大切です。
スタートアップが持つ重要性の高い商標については、そのブランド価値を維持するための対策があるかも確認すべきでしょう。具体的には以下のような対策です。
(i)第三者の行為に対して
(ii)自社の管理方法として
※5:当該商標が普通名称化した場合、未登録の商標であれば、登録が困難となり(商標法3条1項1号)、登録後においては、当該商標登が無効になることはないものの、商標法26条1項は、普通名称(同項2号、3号)慣用商標(同項4号)については、商標権の効力は及ばないとする。普通名称または慣用商標となった商標は、識別力が減退しているため、不正競争防止法2条1項1号・2号に基づく保護を受けることも難しくなる。
※6:不使用取消審判が申し立てられた場合、継続して3年以上日本国内でその商標が使用されていないときは、特許庁がその商標権を取り消すことになる。
登録商標が一般名称的な形で扱われていることを確認した場合、当該商標が自社の登録商標であることが分かる形で使用されるよう、訂正を求めることが望ましいと思われます。また、当該商標が他社の商標であるかのように使用されていると疑われる場合は、商標権侵害を理由に当該使用の中止や表現修正を求めるのも効果的です。
なお、Webショッピングモールに出店する各事業者が登録商標を一般名称的に使用する場合、当該事業者に直接連絡するというのも1つの策ですが、当該モールの運営者への通報、連絡を通じて事業者に対応を求めるというのも効果的な手です。
自社で商標を使用する際には、それが登録商標であることを示す「(R)」を付したり、「●●は××株式会社の登録商標です」といった注意書きを付したりして、当該商標が登録商標であると明示する必要があります。商標権をまだ取得していない場合や、国際展開しているプロダクト/サービスで一部の国で商標未登録の場合には、上記の表記の代わりに、「TM」(trade mark)や「SM」(service mark)を用いるのがよいでしょう。
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