著作物の権利を考える上では、スタートアップ(の従業員など)が単独で創作したのか、それとも外部の第三者と共同して創作したか否かが問題となります。第三者と共同して創作した場合※3には、当該第三者の関与の有無および程度、かかる第三者との間で締結されている契約の内容を確認しましょう。
※3:著作権が共有の場合、他の共有持分権者の同意なく、その共有持分を譲渡できないものとされている(著作権法65条1項)ことには留意されたい。かかる共有著作権の持分譲渡に関する規律は、外国著作権法でも一般に同様である。
また、いずれの場合でも対象会社において、職務著作の要件を満たすように創作がなされているかを調査することは必要です。
第三者のみが創作し、その後対象会社が第三者から取得した著作権については、取得時の契約内容について確認が欠かせません。また、当該第三者において、職務著作の要件を満たす創作がなされているか、創作過程にその他の第三者が関与していないかも調査したいところですが、現実には、当該第三者から調査の協力を得ることは困難でしょう。
対象会社がライセンサーから知的財産権のライセンスを受けている場合、まず確認すべきはM&Aを実行した場合に、ライセンスを従前の条件で維持し続けることが可能かという点です。当該ライセンスがM&Aを検討している事業にとって重要なのであれば、もしM&Aを実行することでライセンス契約が解除されるなど、ライセンス条件が悪化する場合、目的達成ができなくなるおそれがあるからです。
このため、支配権の交代を禁止、または解除事由とする「Change of Control条項」(以下に一例を示す)の有無やその内容が重要となります。特に、問題となっているライセンス契約のライセンサーが、自社(M&Aにおける買主)と競業する事業者である場合には、解除されるリスクが大きいため特に注意しなければなりません。スタートアップの立場で見ると、特にライセンスに関わる契約において、Change of Control条項を入れられないように留意する必要があります。Change of Control条項の例を以下に示します。
(例)
甲または乙は、相手方に次の各号のいずれかに該当する事由が生じた場合には、何らの催告なしに直ちに本契約の全部または一部を解除することができる。
(1)他の法人と合併、企業提携あるいは持ち株の大幅な変動により、経営権が実質的に第三者に移動したと認められた場合
スタートアップにおける知的財産権の管理、運営体制の調査は次の観点から見ても重要です。
まず、大手企業と比べてスタートアップは知財の数では勝負ができないため、知財戦略を構築する上ではいかに明確な目的意識をもって取り組むかが問題となります。そのため取り組み調査を通じて、その知財が事業にいかに役立つかを知っておくべきです。
また、知財DDにおいては、後述のFTO調査のように、対象会社の事業を営むに当たって第三者の知的財産権を侵害していないかの調査が重要です。DDの限られた時間内でどこまでFTO調査を行うかを検討する際には、まず知財の管理体制を知ることが有益です。
多くのスタートアップは、資金繰りや人的リソースの問題のみならず、事業への取り組み方も影響して、商品、サービスのローンチ前に十分なFTO調査を行っていません※4。FTO調査を全く行っていないスタートアップと、アライアンス先との取引時にFTO調査の実施を求められるなどで、ある程度FTO調査を行ったスタートアップとでは、第三者に対する知的財産権の侵害リスクは異なってきます。
※4:スタートアップは、最低限の機能を備えた時点でローンチし、ユーザーのフィードバックを受けて商品、サービスを改良していく(リーンスタートアップ)ことが多い。ローンチ前にFTO調査を行ったとしても、ローンチ前の商品、サービスの構成は、改良後と大きく異なる可能性もある。そのため、ローンチ前に十分なFTO調査が行われない場合も少なくない。
知財DDの一環としてのFTO調査をどこまで行うべきかの判断も違ってくるはずです。どの程度のリソースを投入して調査するかを決める上で、知財管理体制の調査は有益だといえます。
また、知財の活用や管理の方針、これを実行する体制は企業によって大きく異なります。対象会社の知財管理体制を知ることは、M&A後の円滑な知財業務統合においても重要な意味を持ちます。
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